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image2187.png公開年:2011年
公開国:フランス、ドイツ、ベルギー
時 間:92分
監 督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
出 演:マチュー・アマルリック、エドゥアール・ベール、マリア・デ・メディロス、ゴルシフテ・ファラハニ、キアラ・マストロヤンニ、イザベラ・ロッセリーニ、エリック・カラヴァカ、ジャメル・ドゥブーズ 他
コピー:叶わなかった愛が、いちばん美しい。




天才的なバイオリニストのナセル・アリは、命よりも大事な愛用のバイオリンを妻に壊されてしまう。それは音楽の師から譲り受けたストラディバリウスで、いくら替わりのバイオリンを探しても同じ音色を奏でるものは見つからなかった。もう自分の演奏ができないと悟ったナセルは自殺を決意し、自室に引きこもる。そして死ぬ瞬間までの8日間、かつて思い通りにならなかった人生を思い出す。妻ファランギーとの打算的な結婚。母親の死。そして、音楽の修行時代、おまえの奏でる音は空っぽだと師にいわれた時に、イラーヌという美しい女性と出会い恋に落ちたことが、今でも彼の心を締め付けており…というストーリー。

バイオリニストが、一世一代の決意をしてとある行動を…とか何とかいう感じの紹介を見て借りたわけだが、前向きさのかけらも無い“自殺”という展開。『ペルセポリス』の女流監督の作品だった。そりゃ、こうなるか。いや、本人はシュールというかちょい笑いも差し込んだ作品にしているつもりなのかもしれない。いや、おそらく、本気でコメディをつくっているつもりのではなかろうか。だけど、キャラクターがいくら希望を持ったとしても、その根底にはどん底の諦めが漂っている。お国柄というかこれまでの経験からなんだろうけど、とにかく暗い。

暗いけれど、その反面、映像センスはすばらしく、特にイランの町並みの美しさや、独特の文様には目を奪われる。途中で差し込まれる、子供向け童話アニメのようなのが、賛否分かれるところかもしれない。全体の作風や、元々監督の漫画とも乖離しているので、わざとらしさや、狙いすぎている印象を与えているかもしれない。
ただ、それはそれとして、このアニメのデキがすごく好き。まったく予備知識なしで、このクリエイターに日本昔話をつくらせたら、ものすごく面白くなるんじゃないかと思った。

ストーリーに話を戻す。まあ、替わりのバイオリンを捜している間というのは、愛していない妻との生活でもなんとかやっていこうという一縷の可能性があったんだろう。しかし、もう、永遠に見つかることはないと悟った時、彼は死を覚悟し、そして本当に自分が手に入れたかった愛のことを思い出し死んでいこうとするわけだ。

演出上、よくわらないのは、娘や息子の将来の姿が、ナセルの妄想の中の出来事なのか、事実なのか。この作品にイマイチのめりこめないのは、一人称なのか、主人公以外の別のだれかの語りなのか、純粋な俯瞰目線なのか、定まっていないところかもしれない。

あんなに夫を罵倒していた妻なのに、実は…という、謎解きのような展開や、なんでナセルはこんなに、夢のない人間なのか…ということが、ゆっくりと、そして淡々と語られていく。まあ、簡単に言えば愛のすれ違いを描いているわけだが、喪失感からくる絶望とあきらめを通り越して、“虚無”がそこにある。その愛の無さが自分の子供にも向けられているのを見ると、(観ている間は感じなかったが思い出すと)吐き気をもよおしてくるほど。

もう、幼少からの心の傷を、かさぶたが覆い、また覆いの繰り返しで、何が傷なんだかわからなくなった人間による作品に思える。サルトルの書籍を読んだときに感じた不快な感覚に近いかも。

 

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