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公開年:1980年
公開国:日本
時 間:179分
監 督:黒澤明
出 演:仲代達矢、山崎努、萩原健一、根津甚八、大滝秀治、隆大介、油井昌由樹、桃井かおり、倍賞美津子、室田日出男、志浦隆之、清水紘治、清水のぼる、山本亘、杉森修平、油井孝太、山中康仁、音羽久米子、山下哲夫、阿藤海、江幡高志、島香裕、田辺年秋、井口成人、山口芳満、金窪英一、杉崎昭彦、宮崎雄吾、栗山雅嗣、松井範雄、矢吹二朗、土信田泰史、曽根徳、フランシスコ・セルク、アレキサンダー・カイリス、加藤敏光、清水利比古、志村喬、藤原釜足、浦田保利、金子有隣、渡辺隆、伊藤栄八、梁瀬守弘、ポール大河、大村千吉 他
受 賞:【1980年/第33回カンヌ国際映画祭】パルム・ドール(黒澤明)
【1980年/第34回英国アカデミー賞】監督賞(黒澤明)、衣装デザイン賞
【1980年/第23回ブルーリボン賞】作品賞、主演男優賞(仲代達矢:「二百三高地」に対しても)
【1980年/第6回セザール賞】外国映画賞(黒澤明)
戦国時代。長く武田信玄の影武者を務めていた弟・信廉は、自分よりも信玄にそっくりの男を見つけ、万が一のため新たな影武者に仕立てようとする。罪人だったその男は、戦で多くの人を殺める武将をひどく憎み、信玄に対しても牙を向いたが、信玄の人間としての懐の大きさに、あっという間に心酔してしまう。ほどなくして、家康の野田城攻めの最中、信玄は鉄砲で撃たれ急逝。男は急遽、影武者として振舞うことになる。しかし、戦国の雄・信玄として生きることはあまりにも過酷で…というストーリー。
私の黒沢作品の初体験は『乱』であった。学生時代に劇場で観たのだが、元ネタのシェークスピアに造詣が深いわけでもないし、根本的に映画を見慣れていなかった私は、重厚な内容のため162分ですら長く感じた。肉体的な限界を感じながらも、なにかすごいモノを観たなという感じはしたので、とりあえず小遣いが少ないにも関わらずパンフレットだけは買ったのを記憶している(今も本棚に鎮座している)。
ただ、その肉体的な苦痛のせいか、“黒澤作品は体調を整えて心して観ないとヤラれてしまう”と自然に刷り込まれてしまい、以降、疎遠になってしまうのだった。いい歳になって、180分もなんとかこなせるようになり(笑)、やっと本作を観るに至ったと。
いきなり結果から言ってしまうと、華々しい受賞歴から想像したほどの感動は、残念ながら無し。大きな理由は、ドラマとしてよく出来とはとても言いがたいからである。盗人が影武者になり、労した策がバレて放逐されるというのが大きな流れだが、この影武者が苦心する経過が、いまいちおもしろみに欠けるのだ。
このプロットは、陳腐な展開になりがちである。簡単にいえば、影法師が意外といい感じで武将としてウマイことやってしまう…とか、バレちゃいけないのをいいことに、重臣の一人と結託して乗っ取っちゃう…とか。まるで童話『王子と乞食』のように展開させることは可能だが、あえてそういうアリガチな展開にはしなかったと思われる。その方向性は間違ってはいないとは思うのだが、そうしないかわりに、何を持ってきたかというと、信玄の霊が影武者の体を乗っ取ってしまうというギミックなのだ。
影武者が夢を観たあたりから信玄の霊がどんどん侵食しはじめ、まるで本人のように振る舞いはじめ、放逐された後に織田軍に向かっていったのは、影武者ではなく信玄なのだ!ってことだろう。しかし、この描写、如何せんわかりにくいのだ。まあ、そこをはっきりと表現したら、おそらくカンヌは採れなかったとは思うので、怪我の功名ともいえるのだが…。
ただ、それならこの180分という長さは解せない。だから、実際は、豪華絢爛な衣装やリアルな城郭や軍隊を大スペクタクルでみせたかったのが主目的で、逆にそれを邪魔するような、いささか陳腐と捉えられてしまうかもしれない脚本上のギミックは極力排除した…ということだと思う。まるで絵画のような各場面を見せるために本作が存在するならば、ストーリーに判りにくさがあろうとも、人間の体力と集中力が継続可能な3時間という長さであることも頷けるわけである。
これを手放しで評価してしまうカンヌが、映画をどういうものと捉えているのかよく判る。後世にのこる芸術というものは、あくまで後世の人が判断して残っていくものなのに、後世に残るであろうものを一生懸命見つけようとしているのだ。今、よいと思うかどうか、むしろ現在良いと思う事を逆に罪悪とでも思っているかのようで、自分が芸術の神にでもなった感覚で作品を選んでいるのだろう。「何でこんな作品を選んだんだ?」という後世の人の声を恐れて。それは実にくだらない了見であり、芸術への冒涜でもある。やっぱりカンヌは私のセンスに合わない。
さすがに、この苦行を承知でお薦めはしにくいが、ルーカスとコッポラが関わった大スペクタクル時代劇ってのがどんなものかと眺める分にはいいかもしれない。ちょっと美術館で絵画を眺める感覚で。途中、紅茶とシフォンケーキでブレイクしながらどうぞ。ほとんど血なまぐさいシーンはないので。
#あと、どうも『乱』の原作がリア王だったりと、モチーフを西洋作品から得るケースが多い黒澤監督だが、さすがに風林火の三銃士の件はトホホかもしれない。
出張とか入ると、投稿は遅れてしまいますわ。
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