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公開年:1965年
公開国:日本
時 間:92分
監 督:石井輝男
出 演:高倉健、南原宏治、丹波哲郎、安部徹、嵐寛寿郎、田中邦衛、潮健児、滝島孝二、三重街恒二、ジョージ・吉村、杉義一、佐藤晟也、関山耕司、菅沼正、北山達也、沢彰謙、風見章子、志摩栄 他






冬の網走刑務所に、手錠に繋がれた囚人たちが移送されてくる。その中の一人、橘真一は貧農の生まれで義父との仲が悪く家を飛び出した後、やくざとなり、親分のために傷害事件をおこし懲役三年を言い渡されていた。雑居房に入れられた橘は、有名な殺人鬼“鬼寅”の義兄弟と称して幅を利かせている牢名主の依田や、一緒に収監された前科五犯の権田と衝突し、度々懲罰房に送られていた。橘は妹らの手紙で、母親が癌を患い死の床にいることを知り、できるだけ早く仮出所できるように真面目に労役をこなしていたが、他の囚人たちはそれを点数稼ぎと揶揄するのだった。結局、騒動を起こして再び懲罰房に入れられてしまうのだが、保護司の妻木は何故か橘に目をかけて相談にのってくれて、仮釈放の手続きまでしてくれるのだった。一方、雑居房では、依田、桑原、権田の3人が中心となって、脱獄計画が進められていた。仮釈放を目指す橘はそれを冷やかに見つめていたが…というストーリー。

シリーズ化しているのには理由があるに違いないから観てみよう企画。結果をいうと、この一作を見た限りでは、続編が作られるまでの良さを感じることはできなかった。というよりも、ちょっと拍子抜けというか、ヤクザ映画のくせに、このハートフルともいえる終わり方はなんなんだ?!というね。

原作は存在するようだが、全然内容は異なるらしく、刑務所内や、入浴方法、看守たちとの距離感、野外作業の様子などの描写が正しいのか否かは確認できず。網走刑務所の近くを通ったことはあるが見学はしたことはないけど。

橘は早期の仮出所を狙っていたのに、労役の移動時に権田と手錠で繋がれているときに、権田が脱走してしまう。橘は付いて行きたくはないのだから、強引に手錠を外すなり権田をぶち殺すなりすりゃいいんじゃね?と思うわけだが、権田は戻った橘に居場所を伝えられては困るので、仮にお前が戻ったとしても俺は橘が主導したって言うからな!って脅す。おまけに、逃げる過程で看守を一人撃っちゃってるから、もう脱獄囚扱いされている。橘は、仕方なく権田と行動を共にする。
ちょっと、無理やり練ったな…という感じはしないでもないが、逃避行に至る過程の説得力はあるシナリオ。

途中で見つけた家が、保護司の妻木の家だっていうのも、偶然がすぎる気もするが、あんなド田舎だから、まあ無くはないよな…という、これも説得力キープ。

ここまでのレベルだということがわかってくると、なんで白黒にするかなぁ…と残念な気持ちになる。何かの効果を狙ったのかと思いきや、実は予算の問題だったらしいが、本作は絶対にカラーのほうがよかった。一面白銀の世界だから白黒でもいいだろ?と思うかもしれないが、道東の大自然はカラーで見たかった。カラーでこそ際立つ“白”がある。

本作一作だけのおさまりの良さは認めるが、続編の予想がつかない。おそらく全然別キャラクターによるお話だろうし、人情的な内容は減って、ヤクザ物要素が増えていくのではないだろうか。とういうことで2作目は観てみようかなと。

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公開年:2003年
公開国:日本
時 間:116分
監 督:蜷川幸雄
出 演:二宮和也、松浦亜弥、鈴木杏、秋吉久美子、中村梅雀、山本寛斎 他
コピー:世界の“NINAGAWA”が描く――17才の魂の鮮烈な輝きと挫折――







湘南の高校に通う17歳の秀一は母・友子と妹・遥香との三人暮らしだったが、母と10年前に離婚した元継父の曽根が突然現れて、そのまま家に居座ってしまった。朝から酒びたりで、母がそれを諌めれば容赦なく暴力を振るい、それは妹にも及ぶ。なんとか曾根を追い出そうと、母の離婚を担当した弁護士に相談に秀一は相談にいくが、法律では問題が解決できないことを悟ることに。これでは大事な家族を守ることができないと、自らの手で曾根を殺すことを決意し、薬物系の裏サイトや医学書を調べ、周到な殺害計画を立てる。美術の時間に教室を抜け出した秀一は、自宅に戻って計画を実行。速やかに学校に戻り何食わぬ顔で授業を受け、帰宅後に自ら警察に通報する。検視の結果、曽根は病死と判断されて、計画は見事成功したようにみえたのだったが…というストーリー。

『蛇にピアス』で、蜷川監督ってなかなかやるじゃん…と思ってしまったので、同様に若い旬な芸能人を主役に据えた作品をチョイス。ジャニーズにハロプロという直球アイドル映画かよ!っていうキャスティングに若干臆したが、エイヤーでレンタル。

蜷川監督は若い素人同然の役者を使うのが実にうまい。役者たちは学芸会みたいな演技を求められている。へんに巧みな演技をされると逆に興ざめしちゃう。必要なのはこざかしい演技力ではなく、演技はヘタなままで役に没頭してくれればそれでいいという状況、現場の雰囲気をつくれている段階で勝利は確定したるようなもの。“監督”の仕事ってこれなんだな…と、思い知らされた感じ。

原作は『黒い家』『悪の教典』の人。映画化されているののはサイコキラーの話ばかりだけど、好み。本作の主人公は、殺人を決意するに至るもっともらしい理由があるだけで、普通の高校生…といいたいところだけど、このシチュエーションがなかったとしても、きっとどこかで逸脱した行いをしただろうな…という感じを臭わせているのが秀逸。

無味乾燥な雰囲気が支配しているから、無味乾燥で淡々とした作品だと思っている人も多いだろうが、それは狙い。“青い炎”ってのは、チェレンコフ光のことかな。普通の炎とちがってチェレンコフ光自体は熱くない。イメージ的に冷たい炎ってイメージ。主人公のキャラクターの象徴。
そしてチェレンコフ光といえば、原子炉なんかでよく観測される事象。チェレンコフ放射とは直接関係ないんだけど、放射線で肉体内部を破壊するイメージと結びつかなくもない。秀一の殺害の手口に通じているのかな。
で、放射線も通常は目に見えない。家族も同級生も彼の反社会性には気づかない。一部のある“目線”を持った人間だけがそれに気付く。この静けさが、静かな凶暴性とリンクするようでもあり、逆に際立たせるようでもあり…といったところだと思う。不良の同級生や刑事から追い詰められても、さほどあせるでもなく淡々と対処していく様子も、まさに“青い炎”。いろいろ考えた末のタイトルなんだろうね。

秀一は家族を守りたいんだろうな…と思って観ていたけど、母親が曾根に体を許したシーンの後、母親も憎悪の対象にならなかったことがどうもピンとこなかった。レイプされたならまだしも、そういう描写ではなかった。実は母親のことはどうでもよくって、守りたかったのは妹との関係だけなのかな…と思ったがどうだろう。ただ、そうなると、松浦亜弥演じる紀子のキャラクターが邪魔くさい。愛を傾ける女性の対象を2人にする意味はなんだろう。サイコキラーに普通の恋愛をさせるのは、いかがなものかと、私のセンスは叫んでいたよ。
私なら、妹のことを気に入っている同級生がいて、そいつが秀一の犯行に薄々気付くのだが、同じく妹を大事に思っている同士、無言で理解しあう…みたいな感じにするかな。

個人的には、もっと犯罪計画を周到に行うシーンを盛りだくさんにしてほしかったが、“青い”サイコキラーがじわじわと追い詰められていくスリリングさを、十分に愉しんだ。良作だと思う。少なくとも、単なるアイドル映画ではない。
#コピーはクソ。

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公開年:2013年
公開国:日本
時 間:119分
監 督:橋本一
出 演:大泉洋、松田龍平、尾野真千子、田口トモロヲ、波岡一喜、池内万作、安藤玉恵、冨田佳輔、土平ドンペイ、佐藤かよ、桝田徳寿、篠井英介、ゴリ、矢島健一、マギー、永倉大輔、麻美ゆま、徳井優、近藤公園、筒井真理子、片桐竜次、松重豊、渡部篤郎 他
ノミネート:【2013年/第37回日本アカデミー賞】助演男優賞(松田龍平)、助演女優賞(尾野真千子)
コピー:四つの運命は、【謎】で出会う。さあ、冒険のはじまりだ。


札幌ススキノ。探偵“俺”が行きつけにしているオカマ・ショーパブ“ケラーオオハタ”のママ、マサコちゃんが自宅マンション一階のゴミ置き場で何者かに殺害される。マサコちゃんが手品が得意で、マジックコンテストに参加したところあれよあれよとTV中継もされる全国大会に出場することになってしまったのだが、優勝した翌日に殺されてしまったのだ。警察の捜査は進展しないまま数ヶ月が経過。仲間たちのもこの件に触れようととはしないため、不振に感じた探偵が調査をすると、マサコちゃんが地元の大物二世議員・橡脇孝一郎と付き合っていたという事実が判明する。そんな探偵の前に、有名美人バイオリニストの河島弓子が現われ、マサコちゃん殺しの犯人を捜すと息巻く。マサコちゃんは彼女の大ファンで、何度となく彼女(?)の応援に救われてきており、その恩返しをしたいのだという。探偵は彼女に自分は動かずに、金をだして自分に捜査を依頼しろ…となだめ、相棒の高田と共に真相究明に乗り出すのだったが、橡脇を支持する集団や、橡脇に恩を売ろうとするヤクザ花岡組が、探偵の命を狙い襲撃を繰り返すようになり…というストーリー。

TV放送していたようだけど?面倒くさいのでレンタルしてきた。
前作は、ああ札幌が舞台かぁ…、しっかりロケしてるなぁ…というご当地ムービーとしてのすばらしさを堪能したわけだが、今回はしっかり内容を愉しんだ。オカマのショーパブが札幌らしいか…といわれると、当たってるようなあ当たっていないような…(笑)。
前作もそうだったけど、室蘭、中山峠…と札幌を離れると、なんか位置関係、距離関係が何か変な感じなるんだけど、地理が詳しい人からみてどう思う?
#あげ芋は一個喰ったら、十分だ

フィクションなので目くじらたてるなよ…といわれそうだけど、ものすごく違和感を感じるのが、橡脇支持者が自発的に集まっており、それが地元民であるという設定。
原発反対派(であること自体は別にいいんだけど根本的姿勢が間違っている)の議員の応援演説に、実際の札幌市長がノコノコ出演しているといる滑稽さはご覧のとおりで、実際、原発反対のデモは北海道庁前では定期的に行われていたりする。しかし、本作のエキストラのような小奇麗な見た目でもないし、あんなに人数はいない(でも、TVニュースではもっと人数がいるように見えるんだけど)。さすが、“試される赤い大地”といわれるだけの状況ではあるのだが、さすがに、“有志”が自然発生的に集まるという状況はありえない。沖縄の米軍基地反対デモが、ほとんど地元民によってなされていないのと一緒。これ、地元民じゃなくって、日本全国から集まってきた“プロ市民”という設定にすればよかったのに。それも一番特徴のある、バット振り回す人がやる物マネ、全部在阪球団のバッターのすればリアルだったのに。

それ以外は、良かったと思う。いきなりネタバレで申し訳ないけど(以下、ネタバレ注意)。

まーた依頼者が犯人かぁ?という、何割かの観客の予想を裏切ってくれたのは良かった。数ヶ月、時間を経過させるためだけに、わざわざ麻美ゆまを持ってくる必要性があったかとか、クリスチャンという設定をもう少し生かすことはできなかったのか…とか、冒頭の大倉山のシーンは掴みとして正解か?とか、橡脇陣営とか花岡組関係あたりが、微塵も勧善懲悪的な展開がなくてスッキリしないとか、ちょいちょい気になるところはあったけど、私は、前作の倍は愉しめたと思う。
犯人ははじめの方にすでに出ているという法則は、嫌いじゃないよ。

尾野真千子には申し訳ないが、いままでウマい役者だと感じたことはない。ヘタだとも思わないけど、地のキャラそのままに見えて仕方がないんだと思う。今回の役も、バラエティ番組とかに出ている本人と大差ないし。そういう意味では、大泉洋は大泉洋であって“探偵”なのかなコレ…と前回から思っている。だけど、今回のように狂言回しに徹しているような役なら、これもありだと思う。打って変わって松田龍平は、得な役だなと思う。

おそらく次回も作られるだろうけど、観ただけで北海道に行きたくなるような、ガッツリご当地映画にしてほしい。
#ところで、コピーの“四つの運命”って何を指してるんだ?と思ったものの、確認する気はおきない。その程度の作品ってことか…。

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公開年:1972年
公開国:日本
時 間:93分
監 督:伊藤俊也
出 演:梶芽衣子、白石加代子、荒砂ゆき、伊佐山ひろ子、八並映子、賀川雪絵、石井くに子、渡辺文雄、室田日出男、堀田真三、小松方正、佐藤京一、安藤三男、阿藤海、久地明、林宏、宮地謙吉、五野上力、田中筆子、相馬剛三、高月忠、小林稔侍、伊達弘、笠原玲子、河野ミサ、戸浦六宏、三浦忍、園かおる 他




女性刑務所の地下独房に、食事も満足に与えられずに拘束されている松島ナミは、スプーンをコンクリートの床で研いでナイフを作製し、復讐の隙を狙う。ある日、法務省の役人が視察に訪れ、式典に並ぶために久々に地上のだされたナミは、刑務所長郷田のスプーンでつくったナイフで目元を狙う。間一髪で失明を免れた所長は激昂。石切り場の重労働に加え、看守たちに命じてナミを輪姦させるのだった。その後、他の女囚と一緒に移送される時、一瞬の隙をついて看守を殺害し脱走に成功する。ナミと一緒に脱走した面々も曲者ぞろいで、ボス格の大場は、亭主の浮気に立腹して幼い子供と、腹の中の子供を殺したという犯歴の持ち主。大場はナミを毛嫌いしていたが、脱走という共通の目的のために行動を共にする。途中で発見した山小屋で一休みする一行だったが、女囚の一人・及川が、抜け出してしまう。実は近所に我が家があり、子供会いたさに独断で行動したのだ。しかし、看守たちはその行動を予測して待ち伏せており及川を捕縛。看守たちは、及川を脅して彼女たちが潜む山小屋へ案内させるのだったが…というストーリー。

劇画原作特有の訳のわからなさと、サイケとエログロを履き違えたようなセンスで、独特の質感だった『女囚701号/さそり』。公開同年中に続編が作製されていることからも、当時の人気が伺えるというもの。本作は2作目。話は繋がっていて、所長の右目は前作でさそりに刺されていて、きちんと傷も残っている。逆に言えば前作の経緯を知らないと、わからない部分が多いということだ。

梶芽衣子の美しさはいうまでもないが、暴行シーン、輪姦シーンなどおかまいなしで、当時どういう扱いだったのか、どういう売り方をしようとしていたのか、よくわかる。そういうお色気アリの女優を時代は求めていたのに、風当たりは強いという、いびつな時代だったんだと思う。正直、辞めたかったんじゃなかろうか。

前作は、恋仲だった刑事に裏切られたパーソナルな怨念が、さそりの行動の源泉だったが、本作では自分に牙を向くすべての者に対して、分け隔てなく仇をなしている漢字。若干さそりが“神格化”しているような感じが漂いはじめており、シリーズ化するのも納得できる。個人的には前作よりもかなり好きかも。

なんといっても、MVPは白石加代子だろう。お得意のアングラ演技…というか、むしろアングラ演技以外に何もできなんじゃないのか?と思わされるほどのインパクト。彼女の狂気が、“さそり”という非凡な胆力のキャラクターを孤立させないことに成功している。松島ナミだけだと、あまりに超人すぎて、そんな超人ならどんなピンチでも切り抜けられるでしょ?と思っちゃうけど、それに張り合うようなクレイジー人間を登場させることで、うまくバランスが取れていると思う。

一方で、看守連中の間抜けっぷりがスゴイ。シナリオ的に、もうバレバレなのになんでストッキングを被って襲うのか、意味がわからない。仕事とはいえお父さんがあんな抜けな死に方していたらイヤだろうなぁ。小松方正だって室田日出男だって、別に好んでこんな役はやりたくはなかっただろうけど、しっかり全うしているのがすごいよ。
この、看守サイドを馬鹿にする演出は最後まで続き、女囚にだまされて、もう人質はいないと判断して銃撃、結果的に一般市民を警察が殺してしまう構図になる。慰安旅行のサラリーマンも本作ではターゲットで、いわゆる“社畜”も政府の犬だといわんばかり。あいかわらず権威・役人に対する憎悪が各所に見られるのだが、もう、四方八方、手当たりしだい噛み付き始めている。学生運動、革命思想をこじらせちゃって、ここに極まれりという感じ。そして、それが本気でやってるのか、ネタとしてやっているのか微妙なラインだというのが、本作の魅力だったりする。

白石加代子演じる大場とも、渡辺文雄演じる所長とも、しっかり決着をつけて終了しており、脚本としてもなかなか収まりがよい。前作と本作でワンセットお薦め。次作を観るかは未定。

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公開年:1999年
公開国:日本
時 間:118分
監 督:森田芳光
出 演:内野聖陽、大竹しのぶ、西村雅彦、小林薫、桂憲一、田中美里、町田康、伊藤克信、菅原大吉、佐藤恒治、小林トシ江、友里千賀子、鷲尾真知子、石橋蓮司 他
ノミネート:【1999年/第23回日本アカデミー賞】助演男優賞(西村雅彦)





金沢にある昭和生命保険北陸支社に勤める若槻慎二は、契約者の菰田重徳の妻・幸子から、保険の説明のために来て欲しいと呼ばれる。家に行くと幸子は留守で、重徳に家に招かれる。なんと、招かれた居間の隣室で、子供・和也の首吊り死体を発見してしまう。和也も保険に加入していたため、重徳と幸子は保険を請求。本社での審査が長引いていたため、支払いまでに時間がかかったのだが、その間、重徳と幸子は何度も若槻の会社に押しかける続けた。その後、保険は支払われることになったのだが、二人の異常な態度を不審に感じた若槻は、独自で調査を開始する。すると、重徳が障害給付金を得る為に自分の指を落としていたり、二人の周囲で不審な死亡事件が立て続けに発生していたことがわかり…というストーリー。

和歌山毒物カレー事件が1998年だから、それを意識して製作されているのだろうか(原作は事件より前に発表されている)。ちなみに、和歌山毒物カレー事件の犯人宅には原作本があったという噂を聞いたことがある。事実なら、原作に触発されて事件が発生し、事件を念頭に置きながら本作が製作されるという、奇妙なループができていることに。
#今となっては、現実の事件のほうが強烈極まりないけどね。

細かいディテールが醸し出す“それっぽさ”がハンパない。古めの家屋。北陸という絶妙な舞台の距離感。エセ愛犬家。演出的にどこまで踏み込んでいいのか(和歌山毒物カレー事件を彷彿とさせる演出をどこまでやっていいのか)を、探っているようにも私には見える。その探り探りアクセルをふかしているような感じが、妙な雰囲気を醸し出す結果に。他の猟奇サスペンス作品には無い、珍妙な空気が流れている。

大竹しのぶがとても美しい。公開当時は全然ピンとこなかったのだが、今みるとものすごく魅力的に見える。逆に、西村雅彦の演技はちょっとヤリすぎ。その他、犯罪心理学の助教授とかの演技もヤリすぎだし。
森田芳光の演出がバブル臭がプンプン。インパクトプリンタの音を流用した効果音。片足を引きずった刑事。黄色。ボーリング。不安感を煽ろうとする演出が、ことごとく見え透いている感じ。話の中のアイコンとして際立たせるため、キャラを立たせる意図はわかるんだけど、このころの演出は、本当にダサいと思う。これを、作品の方向性をわかりやすく観客に示していると捉えるか、ホラー・サスペンスのカウンターとしてベタベタな演出とか、コメディチックな演出を挟んでいるのだと好意的に捉えるかは、人それぞれかな。
#事件の状況を知ってると思うのだが、それでもボーリングに誘う鬼畜上司。なんか若槻に恨みでもあるんか?

佳境のシーン。警察が来たので逃げるのだが、逃げるシーンも映像として表現していないし、その直後の救出されるシーンも端折っている。いわずもがな…なのかもしれないが、幸子が、焦りもせず、逃げ時は今と判断して淡々と逃げる様子は、なかなか恐怖を募らせてくれたと思う。逆に、最後にチャックしめる演出は、評価するけど。

鼻につく演出はスルーしよう。そうすればとても優秀なサスペンス(ってか、それは原作の出来がいいってことか)。
#なんか、今なら韓国とかが好きそうな題材とか演出だな…と思ったら、韓国でリメイクされてた(見つけたときは笑った)。

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公開年:1960年
公開国:日本
時 間:150分
監 督:大友克洋、森田修平、安藤裕章、カトキハジメ、森本晃司
出 演:三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也、志村喬、西村晃、加藤武、藤原釜足、笠智衆、宮口精二、三井弘次、三津田健、中村伸郎、藤田進、南原宏治、清水元、田島義文、松本染升、土屋嘉男、山茶花究、菅井きん、賀原夏子、樋口年子、佐田豊、沢村いき雄、田中邦衛、峯丘ひろみ、田代信子、一の宮あつ子、近藤準、横森久、桜井巨郎、清水良二、生方壮児、土屋詩朗、小沢経子、土野明美 他



土地開発公団の副総裁・岩淵の娘佳子と、岩淵の秘書・西幸一の披露宴が盛大に行われようとしていた。公団には、建設会社との間に数十億の汚職の疑惑がかかっており、多数の新聞記者が披露宴会場に詰めかけていた。また、新婦・佳子は足に障害があり、西は出世目当てで結婚したのではないかという噂が、まことしやかに囁かれていた。さらに式の直前、公団の課長補佐・和田が警察に連行されるという、異様な雰囲気の中、式がスタートする。不穏な空気が漂いつつも、滞りなく式は進み、いよいよケーキ入刀という時に、公団のビルをかたどったケーキが運ばれてくる。そのケーキの7階部分には赤いバラが刺さっている。バラが刺さっている部屋は、5年前に公団の課長補佐・古谷が飛び降り自殺をした場所だった。ますます不穏な空気が漂う中、なんとか式は終了する。連行された和田は、刑事の尋問の黙秘を通した末に釈放されるが、自殺を決意し火山の火口に向かう。いよいよ身を投げようという時に和田を止める者が現れる。岩淵の娘婿・西であった…というストーリー。

西の目的は何なのか? 西の正体は? 胸糞悪くなるほどの腐った奴らをどうやって追い詰めていくのか? これは一流のサスペンスですわ! と小躍り状態で鑑賞していたのだが、ラストにがっかり。
(以下、完全にネタバレ)
別に、何でもかんでも勧善懲悪にしろっていいたいわけじゃない。だけど、さあこれから!っていう展開の中、結末の攻防を見せるわけでもなく、すっかり事が終わっているってのは、いかがなものか。黒沢明は、皮肉を利かせたつもりかもしれないが、ペーソスが皆無であるため、まったくスッキリしない。
タイトルどおりに、悪い奴らはこれからもよく眠るんだからいいじゃーんって、言われても、ムカつくだけだわ。

西はまだしも、和田も殺されたであろうことを考えると、非常に気分が悪い。せめて西が、今回の作戦遂行にあたって、殺されても仕方がないくらいの悪事をやっているというなら、“残念!!”っていう気持ちで観ることができたと思うのだが、大した罪はおかしていないんだもの。
三船敏郎演じる西という、ダークヒーロー像をうまく構築できたのに、非常にもったいないと感じる。はじめは単なる復讐の駒でだった佳子を愛おしく感じるようになり、さらにまったく手を出さないという部分は、よい味付けになっている。

腹立たしいのは、とってつけたように睡眠薬が登場し、それを娘に飲ませたら、ちょうどいい程度に朦朧として、ペラペラしゃべってくれるという、そんな“綱渡り”みたいな演出の末に結末を迎えているようなシナリオだということ。こんな無理になぎ倒すような展開が良いわけがない。
#まさか、黒沢明が、こんな稚拙な演出をするわけがない…と思いこんでいたから、ロミオとジュリエットばりに佳子を誤って殺しちゃって、岩淵が発狂でもするのかと思ったわ・

もっと贅沢をいえば、加藤武演じる本物の西が、なんで板倉に協力することになったのか?について、設定を膨らませて欲しかった。例えば、板倉ほどではないにしても、公団関係者に強い恨みを持っていたとかね。これも、ラストが締まらない要因の一つ。

ラストだけ違えてリメイクしてほしいわ。

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公開年:1984年
公開国:日本
時 間:108分
監 督:澤井信一郎
出 演:薬師丸ひろ子、世良公則、三田佳子、三田村邦彦、高木美保、蜷川幸雄、志方亜紀子、清水紘治、南美江、草薙幸二郎、西田健、香野百合子、日野道夫、仲谷昇、梨本勝、福岡翼、須藤甚一郎、藤田恵子 他
受 賞:【1985年/第9回日本アカデミー賞】助演女優賞(三田佳子『春の鐘』に対しても)
【1984年/第27回ブルーリボン賞】主演女優賞(薬師丸ひろ子)



劇団「海」の研究生・三田静香は、女優としての幅を広げるために、先輩劇団員の五代淳と一夜を過ごす。翌朝、自分の部屋へ帰る途中に、公園で次のオーディションの練習をしていると、公園で寝ていた男から演技を賞賛される。男は不動産屋に勤務する森口昭夫。森口は静香の演技へのひたむきな姿勢に惹かれていく。劇団「海」の次回演目は『Wの悲劇』という本格ミステリーで、女性(“W"oman)の悲劇を描く作品である。作中でおこる事件の鍵を握る女子大生・和辻摩子役は、研究生の中からオーディションで選ばれることになっていた。静香もオーディションを受けたが、摩子役は、菊地かおりに決定。静香はセリフが一言しかない女中役と、プロンプターの役割が与えられた。落胆して帰宅した彼女のところに、花束を抱えた森口がやってくる。合格しなかったことを告げた静香は激昂するが、結局、二人は飲みに行き、そのまま森口の部屋泊まるのだった…というストーリー。

本作は劇場で観た。久々に鑑賞。実は併映の原田知世主演『天国にいちばん近い島』が目当てだったのだが、それがものクッソつまらなくてがっかりだった。しかし、本作が予想外におもしろくて納得して帰ったのを覚えている。でも、上のあらすじでわかるように、主人公が簡単に男を関係を持ってしまうので、(友達と観にいったのだが)ちょっと気まずかったけどね。一応、アイドル女優的ポジションだったと思うんだけど、こういう扱いでいいのかなぁ…なんて思ったものだ。

久石譲の映画音楽を聴いたのは本作が初めてだった。素人がとっつきやすい良い雰囲気の音楽で、ショパンの『別れの歌』に通じるキャッチーさを感じた。こちらもしっかり記憶に残っていたね。

その後、原作も読んでみようかな…なんて思って、珍しく買ってみたら(古本だけど)、本作で演じられている劇中劇の内容だった。原作ってクレジットされてるんだけど、“原案”ってレベルかな。本作の原作ではないことを知って、そのままそっと閉じた。
まあ、それはそれとして、夏木静子の原作を劇中劇として織り込んだ構成が秀逸。脚本の荒井晴彦、澤井信一郎の両氏の仕事が良い。舞台監修は蜷川幸雄で、本人も舞台監督役を演じているのもユニーク。
演劇の苦労話と並行して、森口と静香の恋愛模様を絡めつつ進行していくのかと思いきや、腹上死の身代わりになるという斜め上の展開に。いささか無理があるように思えるのだが、それを成立させようとする三田佳子演じる羽鳥翔の演技がうまい。演技っていっても“劇中で演技してる演技”だからね。
もう、森口なんかが置いてきぼりの展開になっちゃうのだが、最後に揺り戻すのがすごい。やるな澤井信一郎と思うのだが、ちょっと救急車が来るのが早すぎるんじゃねえかと、みんなツッコんでいたな(笑)。そこだけ玉に瑕だ。
#短めの時間によくまとめているな…とも思う。

薬師丸ひろ子の舞台上とそれ以外の演技の振り幅が、なかなかすごい。平凡な子なのに、役者として生きる覚悟を決める役をしっかり演じきっている。そして、劇団とは無関係の世良公則演じる森口が、その静香の“振り幅”に翻弄される。キャラクター自体も秀逸だったけど、世良公則自信も本作以降、“カッコいい役者”扱いされていき、役者の仕事が増えていったが毛量と共にそれも減っていく(ヒドい分析)。

秀逸な構成とアイデアと、ともすれば少女マンガかよ…で終わってしまいそうになるところを、グイっとひきつけた役者陣のお仕事がすばらしい作品。1980年代の角川アイドル映画では、群を抜いた出来映えの作品。
#今、観ると、ヌケヌケと芸能キャスター役で登場するご本人たちって、遠まわしに馬鹿にされていることに気付いていないのが、笑える。こういう大人になっちゃダメだよ…っていう見本だよね。 

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公開年:2011年
公開国:日本
時 間:114分
監 督:石井克人
出 演:妻夫木聡、永瀬正敏、松雪泰子、満島ひかり、安藤政信、津田寛治、森下能幸、寺島進、松田翔太、大杉漣、阿部力、我修院達也、テイ龍進、島田洋八、清川均、高嶋政宏、小日向文世、土平ドンペイ、友光小太郎、結田康太、江藤純、山本竜二、田中聡元、松原誠、城明男、加治木均、黒石高大、戸井悠太、松山尚子、川村寧麿、前野朋哉、近藤フク、山口あゆみ、南優、眼鏡太郎、星野あかり、夏川亜咲、外川貴博、内ヶ崎ツトム、伊方勝、もてぎ弘二、天乃大介、歌川椎子、紺野萌花 他



25歳の青年・砧涼介は、役者の夢に挫折して、日々ダラダラと過ごしていたところ、つまらないパチスロの儲け話にひっかかり、300万円の借金を追わされてしまう。返済のため、裏社会の便利屋・山岡のに斡旋する秘密の運送屋“スマグラー”の仕事をするハメに。仕事を仕切るジョーとその相棒ジジイとともに、ワケありのブツを運ぶ仕事に。しかし、初仕事で運ぶ荷物は、田沼組組長の死体だった。一方、組長が殺された田沼組では、幹部の西尾、河島らが躍起になって犯人を捜索。やがて、チャイニーズマフィアの伝説の殺し屋、“背骨”と“内臓”の仕業であることが判明する。組長の若妻・田沼ちはるは、組員たちの様子を冷ややかに見ていたのだったが…というストーリー。

マンガ原作らしいのだが、だからといっていかにもマンガだなぁ…という“臭さ”を残す必要はない。どの部分を言っているかというと、終盤の安藤政信演じる“背骨”を永瀬正敏演じるジョーが銃で襲撃するシーンである。シュタタターと銃弾を避けて天井までゴキブリのように高速で登る。興醒め。台無し。
そのシーンの前にも“背骨”の常人を超えたムーブを見せる場所は多々あったが問題はなかった。いや、むしろ、アクションシーンとしては、素晴らしい(アクション監督はなかなかの才能だと思う)。だが、このCGによるアクションは“クソ”。おそらく経験が浅く安価だったんだと思うが、つまらないところでケチってしまったなと思う。安藤政信も永瀬正敏も非常に良い演技だっただけに、残念なシーンだ。

妻夫木聡演じる主役の砧は、巻き込まれ系のキャラクターだが、主役というほど軸でもないし、狂言回しという役回りでもない。彼が主役であるためには、映画の中で変化、成長をする必要がある。何でも諦めちゃうダメ青年が、どう成長するか…という部分。
大杉漣と松田翔太演じる警官にバレそうになったときに、火事場のクソ力を発揮するシーンでは、変化、成長の片鱗が伺えるが、それ以降はさっぱり描かれない。終盤で高嶋政宏演じる河島に拷問されるわけだが、そこに到達するまでは周囲に流されるだけ。で、最後の最後で、一皮向けるという演出なのだが、なんで拘束具が外れるのか…という肝心の部分がよくわからん。
主人公による軸が作れないなら、群像劇のようにすればいいのだが、その他のキャラのバックボーンを描こうという演出は特にない。シナリオの構成が悪いってことなんだろう(って、シナリオも石井克人が書いてるんだけど)。

一方、松雪泰子のゴスロリキャラをはじめ、脇を固める役者陣は、かなりいい仕事をしている。高嶋政宏はちょっとやりすぎか?と思わせるところだが、ギリギリの線を探った仕事だと思う。“現場”清掃のおばちゃんたちまでいい演技だ。妻夫木聡はいつもどおりの凡庸な演技に見えるが、逆に何の色もない若者を演じさせたら右に出るものはいないんじゃないかと思い始めてきた。案外、長くやっていける人なのかも。

唯一、イマイチだったのが、満島ひかり。無表情で抑揚のないしゃべり方で、ちょっとツンデレというキャラクター。そういう演技を求められたのかもしれないが、正直、また同じかよ…って感じで、この手の演技は飽きた。旬な人ではあるけど、今一つ変化がないと、このまま消耗して終わってしまう予感がする。

役者陣のいい仕事と、アクション監督のいい仕事によって救われて、なんとか凡作に留まった作品。もう一度言うが、シナリオの構成さえしっかりできていれば、間違いなく快作になっていたはず。

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公開年:1984年
公開国:日本
時 間:133分
監 督:藤田敏八
出 演:時任三郎、藤谷美和子、田中邦衛、三船敏郎、原田芳雄、五月みどり、清水健太郎 他






フィリピン人の父親とのハーフであるジョーは、島袋一家の組員。島袋一家は琉球連合に所属していたが、破門され、警察署長立会いのもとで解散することになった。組長は一時的に大阪に退避すると決め、身の回りの世話をするために帯同するように、ジョーは兄貴分から命ぜられる。残り少ない沖縄の夜を楽しんでいると、バーでばったりであった琉球連合の組員といざこざになってしまう。その喧嘩が元で、ジョーの弟分・与那城が琉球連合の連中に殺されてしまう。ジョーは、弟分の仇を討つために、琉球連合の理事長を射殺する。警察の捜査を掻い潜り、安ホテルに潜伏後、恋人の洋子の手引きで逃亡。その足で、母親に金を残そうと実家に夜と、母親から、昔に送られてきたフィリピンの父親からの手紙を渡される。その後、バスの中で、かつて刑務所で一緒だった、過激派の一員だった上勢頭と再会。彼の手引きで、海外逃亡を画策するのだが…というストーリー。

藤田敏八監督の作風にマッチしていない話だと思う。いや、海外逃亡をするまでの、ありがちで小品という印象のストーリーを、どよんと湿った重々しい空気を漂わせた、いい雰囲気でまとめており、そこまでは評価できる。しかし、フィリピン逃亡後、二次関数的にスケールが大きくなるのに、監督の演出がそれに付いていけていない。
本作、三船プロ作品ということもあってか、ジョーの逃亡を手助けする役で、三船敏郎が登場。チョイ役っちゃあチョイ役なのだが、ボートを操舵する役で、おそらく実際に操舵しているし、南の島のロケにもいっているので、拘束時間は相当なもの。そこまでやるんなら、もっといい役をやればよかったのに…。でも、7指摘したいところはそこじゃなくて、三船敏郎が出ているあたりまでが、おもしろさのピークだってこと。

フィリピンパートは、おもしろくなっていく気配が感じられない。原田芳雄には申し訳ないが、訳知り顔のキャラクターは、展開にマッチしていないし、いまいちヤバイ橋を渡っている雰囲気も出ていない。逆にクレイジーさ満開で暴走してくれればよかったのだが、それでもない。中途半端。
もう一つの流れである実父の消息の話も、それらしい人に出会う…というただそれだけで、グッとくるシーンに描けていない。盛り上がりも切なさも皆無。
清水健太郎演じるルポライターがとってつけたように登場。本当にとってつけた登場で、これまでの筋とは無関係。そこから、琉球連合の追っ手に襲撃されるあたりが、超絶的に退屈。平板でパラパラマンガをみているようである。大体にして、カーチェイスも銃撃戦もショボすぎる。

このお話はハーフとして生まれたことでアイデンティティが確立できなかった成年がアウトローとなり、逃亡することで“土地”というアイデンティティすら失ってしまう。しかし、逃亡により自分のルーツを感じ、さらに思いも寄らぬ新しい家族を得る予兆で、自分というものが見えてきた矢先に、“ルーツ”への失望、愛を喪失してしまい、また根無し草となり絶望する悲劇なのである。全然描けていないでしょ?(てか、そんなテーマが監督に見えていたのかすら甚だ怪しい)。

藤谷美和子は、ものすごく可能性を感じさせてくれる演技なのだが、ポテンシャルのチラ見せで終わった感じ。一途に一人の男を愛し、懐妊したのに無残に殺されてしまうという展開にも関わらず、特に心にさざなみすらおこらないのは、監督のせいか、彼女の演技のせいか。

絶対、もっとおもしろくできたはずなのになぁ…と、思いながらラストを迎えた作品。こんな感じなら、100分くらいにまとめてスピード感を出せばよかったのにね。

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公開年:1972年
公開国:日本
時 間:87分
監 督:伊藤俊也
出 演:梶芽衣子、横山リエ、夏八木勲、渡辺文雄、扇ひろ子、渡辺やよい、三原葉子、根岸明美、国景子、片山由美子、城恵美、三戸部スエ、小林千枝、由貴リエ、室田日出男、伊達三郎、堀田真三、沼田曜一 他





Y県女子刑務所から脱走する松島ナミと由紀子だったが、所員の執拗な追跡により捕らえられ、手足を縛られて懲罰房入りとなる。ナミは刑務所に入るまでのことを思い出す。かつてナミは杉見という刑事の恋人がいたが、杉見は麻薬捜査の囮としてナミを組織に潜入させた。しかし、ナミが刑事の犬であることがバレても助けることなく、強姦されるのを放置。それを理由にして現場に乗り込んで麻薬を押収するが、その麻薬をネタにして麻薬組織に取り入ってしまう。杉原に裏切られたナミは、復讐のために杉原を襲うが致命傷にはならず、逮捕され収監されてしまったのだ。復讐に燃えるナミは、他の女囚から孤立しており、所員たちからも目を付けられていた。そんな中、ナミを始末したい杉見は、女囚の片桐に、不審な点が残らないように始末を命じるのだったが…というストーリー。

キル・ビルで本作の主題歌『怨み節』が流れるのは有名な話。作中のショットで『修羅雪姫』のシーンがオマージュされているので、そっちはみたのだが、“さそりシリーズ”は初見。梶芽衣子のクールビューティさと大胆な演技(ウマいわけではない)は、タランティーノが惚れるのも、至極納得。なんか梶芽衣子を見ていると、うまく生きられないタイプの人間なんだろうな…っていう印象がする。だからこそ、本作のような役柄が、見事にハマるんだと思う。大体にして、あまり台詞がないのにこのインパクトを残しているってのがすごい。
本人はそんなイメージを払拭したいと思うだろうけど、滲み出ているものなので無理。逆に吹っ切れほうがいい。

梶芽衣子が主演したのは、初期の4作だけだが、その後、何度も主演女優を変えて映画版やVシネ版が作られている。こんなに、続編ではなく純粋にリメークが繰り返される作品って、他にあるだろうか。それだけ魅力的な設定ってことなんだろう(まあ、1990年代以降は、中途半端なセクシー系女優の流れ先って感じもしなくはないが…)。

元が劇画ということなので、あたりまえなのかもしれないが、囚人服をはじめ刑務所内の様子など、まずリアルじゃない。ありえない。でもそれが、観客に穴探しやトンデモシーン探しなどを始めさせる気をハナから消失させているわけで、そのおかげで、ナミと一緒に観客も“復讐の鬼”と化すことができるのだ。
ストーリーもシンプル。女を女とも思わない非道な刑事。全共闘などによる学生運動が内ゲバによって自壊していく頃とはいえ、まだまだ社会権力側の不当な圧力に不満が鬱々としていた時代。いや、実際の活動が下火になっていったからこそ、フィクションに入り込めたともいえる。そして、一度は愛し抜いた男を殺そうとするという、やってることはハードだけど、その内部は実にメロウ。ラストでいよいよ両者激突という場面でも、これだけの仕打ちにあっていながら、一瞬手を抜いてしまうナミの姿に、女性は共感できるのか!?男性は女ってチョロいな!って思うのか(笑)!?

ガラス張りの床や、回転セットなど、暗転の多用など、アングラ芝居調なのも、この時代の特徴か。

看守によるエロ&エロなシーンは当たり前。レイプシーンなどあからさまで、日活の成人映画だっていわれても納得できるくらいなんだけど、配給は東映。時代を感じるね。
#この、囚人服のTシャツ欲しいなあ。作ろうかな。売れると思うよ。

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公開年:1986年
公開国:日本
時 間:99分
監 督:松田優作
出 演:松田優作、石橋凌、手塚理美、ポール牧、阿木燿子、片桐竜次、平沢智子、剛州、梅津栄、伊藤洋三郎、加藤善博、石橋蓮司、小林稔侍、ジャンボ杉田、工藤栄一、寺島進 他






大島組と旭会の抗争が続く新宿。大島組の若頭・山崎は、覚醒剤を捌くシマを旭会に奪われ、デート喫茶のシノギで稼ぐしかなくなり、腐っていた。そんな中、記憶喪失の男がバイクにのってふらりと現れ、ホームレスの世話になり廃屋で暮らし始め、“風さん”と呼ばれる。山崎は、警察の潜入捜査官か何かではないかと疑い、部下に調べさせたが、逆に痛めつけられてしまう。彼の圧倒的な腕力に興味を抱いた山崎は、直に接触。その、自由な行き方と雰囲気に惹かれ、デート喫茶で働かせることにする。そんな中、大島組の組長が旭会の構成員によって銃殺される事件が発生。組長の死によって大島組の実権を握った藤井は、山崎に旭会の副会長殺害を命る。なぜ、組長ではなく副会長なのか?という山崎の疑問に対して、事後に旭会と手打ちをして、大きな縄張りを手に入れる算段であると、藤井は答える。釈然としない山崎だったが、命令どおり襲撃を行う準備のために、覚醒剤を拳銃・現金と交換する取引に向う。“風さん”は、その取引に帯同すると山崎に申し出るのだったが…というストーリー。

ネタバレというかなんというか、正直、ラストには驚愕というか、顎が外れたというか…。
漫画原作があるようなので、こういうオチになるのは致し方ないのかな?なんて思ったが、wikipediaを見ると、原作はそういうオチではない模様(というか、こんなヤクザの構想話ですら無い模様)。そこまでは、正統派のヤクザ抗争ストーリーで、突然の来訪者により場がおもしろく掻き乱されていくという構図が、非常に面白かったのに、なんであんなオチにするのか。
#“あんなオチ”に関しては観てくだされ。

松田優作の監督作品で、彼が監督したのは後にも先にもこれだけ。実は本来の監督と松田優作がモメて降板。それもかなり進行してからの交代劇。松田優作はアクション要素を重視していたというから、その点は成功しているので、交代劇自体は否定するつもりはない。
素人監督らしく、カメラの構図が稚拙だったり、石橋凌や手塚理美の演技が素人臭かったり、音楽が田舎臭かったりと、臭い部分の連発なのだが、時間が経っているからなのか、そういう“臭さ”が一回りして、不思議な妙味になっていると思う。
#まあ、北野武みたいに代役監督で花開く例もあるけど、一発目でこれをやっちゃったらオファーはないわな。

いい味になっているんだから、やっぱりあの設定は変えるべきだった。ベトナム戦争に参加した傭兵で、何らかの化学兵器によって強靭な肉体と鋭敏な感覚を身に付けてしまった実験体で、記憶をなくした状態で施設から失踪した存在で…とかでいいじゃんか!(涙)。

驚愕設定を、役者の演技(石橋凌と手塚理美を除く)と監督演出が追い越していった、稀有な作品。よくも悪くも珍作。
ただ、本作のMVPは間違いなく、ポール牧による金子信雄ばりの怪演。

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image2206.png公開年:1982年
公開国:日本
時 間:164分
監 督:橋本忍
出 演:南條玲子、北大路欣也、隆大介、関根恵子、宮口精二、大滝秀治、星野知子、光田昌弘、かたせ梨乃、長谷川初範、室田日出男、下絛アトム、北村和夫、谷幹一、仲谷昇 他






トルコ嬢の道子は、ある日一匹の野良犬と出会いシロと名づける。その愛犬シロと琵琶湖の湖畔を走り続け、1年以上が過ぎた。一方で、トルコの仕事に疲れ始め、そろそろ潮時かも…と思い始めていた秋のある日、シロが何者かに撲殺されて発見された。心の支えだったシロを失った道子は、仕事を休み、犯人探しに躍起になり、手がかりを求めて東京まで出向く。昔の仕事仲間だったローザの協力により、犯人が有名作曲家の日夏であることを突き止める。なんとか復讐しようとするが果たすことができず、琵琶湖に帰った道子は、かねてより親切にしてもらっていた銀行員の倉田に求婚され、結婚を決意するのだったが…というストーリー。

日本映画のトンデモ作品といえば、かならず登場する本作。いや、本作と『シベリア超特急』と『北京原人 Who are you?』がトップ3かな(『デビルマン』が食い込みそうだけど、あれはトンデモでもなんでもない駄作だしな)。なかなか発見できなかったがやっと借りることができた。

まず、主人公がトルコ嬢というのがなかなかのパンチなわけだが、こんな作品が東宝創立50周年記念作品の一つだという。そんなことが許されるのだろうか。当時の東宝社員は何を考えていたのだろう。まず、冒頭の“ランニング指導”っていうテロップで、なんか笑けて来たりする。

大体にして、あらすじを書いていてイヤになる。“昔の仕事仲間だったローザの協力により、犯人突き止める”と書いたが、そのローザは、何か良く判らないが、日本の性風俗産業を調査するために実際に現場で働いていたアメリカの諜報部員という設定である。トルコ嬢として相当な期間を働いた結果が、“日本の性風俗産業は、昔の赤線のようには発展し得ない…”とか、それ働かないと判らんか???スポーツ新聞のピンク欄を読むだけでなんとなく判らんか?そして、そのレポートをまとめるシーンを、『パルプ・フィクション』ばりに時間軸を交差させて差し込む演出。そこまでする意味は?
実は、ストーリー的に、犬を殺した犯人の身柄を判明させる役柄のためだけに彼女は存在する。はたして、犬を殺した犯人を捜すために、わざわざアメリカの諜報員を持ち出さないといけないものだろうか。

164分と、地味に長かったりするのだが、そのくせ無駄なシーンが多い。冒頭の、銀行に金を預けろだ何だのすったもんだは何だったのか。経営側と主人公間の対立関係を表現しようとしているのかと思ったら、その後の展開において、両者は仲良しさんである。犬が殺された程度で仕事は長期間休ませてくれるは、犬を殺した犯人を捜すために警察との間は取り持ってくれるわ、親切極まりないじゃないか。
#話のキーポイントである犬の死だが、その犬の死体が本物ように見えた。これが一番怖かった。

で、復讐劇になるわけだが、その復讐というのが、ジョギングで追い抜いてギャフンといわせてやる…って、なにそれ。頭のおかしい人間の発想ですわ。なんか変なクスリでもやってるんじゃないかと…。このシナリオを、だれか止める人間は東宝にはいなかったのか…。

配役をみると、役者陣は異様に豪華。トルコ嬢の同僚役のかたせ梨乃だが、別に彼女でなければいけないどころか、彼女の役が必要だったか甚だ疑問。かたせ梨乃
の無駄遣い。さらに、突然、秀吉時代の描写になるのだが、そこでの関根恵子やら星野知子やら秀治やら北大路欣也が登場。別の映画のセットを転用したのだろうが、これまた本編の筋とは不釣合いなほど豪奢。秀吉の時代に、自分と同じように理不尽な恨みを抱いた人がいた…という話だけなのに、無駄に長く豪奢である。

このくだりは、笛の人の語りなのだが、良く考えると、何でシロが死んだって、笛の人が知ってるわけ?
最後、凶刃に襲われたヒゲのおっさんは、誰の助けも呼ばずに、追いかけられるままに素直に走ってるわけ?
こんだけ、ダラダラ長いのに、大局的に矛盾があるってどういうことよ?

無駄にスペース・シャトルの模型が精巧。色々、力の入れ具合が間違っているんだよね。
トンデモな内容でも、琵琶湖周辺のご当地映画くらいになってりゃ意味もあるんだろうけど、それにすらなっていない。いやぁ、噂どおりのスゴい奴だった。こんな作品を作った人間に、仕事を頼む気などせんわなぁ。

 

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image1969.png公開年:2009年
公開国:日本
時 間:112分
監 督:益子昌一
出 演:寺尾聰、竹野内豊、伊東四朗、長谷川初範、木下ほうか、池内万作、中村有志、岡田亮輔、黒田耕平、佐藤貴広、酒井美紀、山谷初男、富永研司、高瀬尚也、吉田友紀、松本匠、森下サトシ、希野秀樹、田中伸一、宮本行、辻雄介、渡辺憲吉、奥村寛至、小島康志、鳴海由子、渡辺杉枝、不二子、大滝奈穂、伊東遥、栗林里莉、宮田直樹、矢嶋俊作、荒木誠 他



ある日、長峰重樹の中学生になる娘・絵摩が、荒川で無惨な死体となって発見される。妻を亡くして以来、娘の成長だけを生きがいにしてきた長嶺は、絶望に打ちひしがれる。そんな長嶺のところに、犯人は菅野と伴崎という男が犯人であるという匿名電話が入り、伴崎のアパートを教えるのだった、長嶺はその内容に従い伴崎のアパートに進入。そこで、娘を殺すまでの様子が撮影されたビデオテープを発見する。激しい怒りに我を忘れた長嶺は、帰宅した伴崎を刺殺。もう一人の菅野の居場所を死ぬ間際に聞き出した長嶺は、潜伏先へ向かうのだった。その後、長嶺は、伴崎殺害を自供する手紙を警察に郵送。刑事たちは、長嶺の絶望感に共感しつつも、法の番人として振舞わねばならない不条理に苦悩する…というストーリー。

おそらく原作は、“少年法”というものを切なく、そして息苦しく描いているのだろうが、本作はすべての焦点がボケまくっている。はじめにいってしまうが、この監督さんはセンスがない。

まず冒頭。未成年の少女が少年グループに拉致されるくだりが、長々と描かれる。もう、どういう展開になるのかは、100人観たら100人がわかっているのに、わざとらしいおどろおどろしい音楽をつけて、ほら、いま拉致されるぞーとやる。本当にわざとらしく冷める。
別にスタイリッシュに描けとか、そういうことを言っているのではない。私なら、狙われいるように一人の女の子に焦点当てておいてスカしたり(別の子でしたーとか)、いっそのこと電話で話した後は、ちらっと襲われるところをみせて、すぐにモルグで、バーンとタイトル!とかにするけどね。

留守番電話に匿名のタレコミが入って、そこを訪れて、結果的に殺人に至り、その後逃走する流れは非常におもしろい。というか、これがこの物語の本筋なんであたりまえなんだけど。でも、部屋で発見するビデオがほとんどスナッフムービーで、音声を聞いているだけで吐き気がしてくる。犯人への憎しみを沸かせたいのだろうけど、これがやりすぎで、かえって観せたい部分から逸れてしまうことになぜ気付かないのか。この部分こそ、うまく寸止めで表現すべきところ。

ここまでくると、唯一、この話と観客を繋いでいるのは、復讐できるか否か。その一点。100人観ていたら99人が、思いを遂げて欲しいともってたに違いない。
いや、でもきっと、99人がそう思っちゃいけないはずなのだ。本当は、観客も「やってよし」と「それでも法を遵守すべき」との間で揺れさせるような演出をしなくてはいけないはず…。竹野内豊演じる若手刑事ははすっかり長峰重樹寄りだし、伊東四朗演じるベテラン刑事だって、別に法の権化ってわけでもないし(このベテラン刑事のキャラは全然生きていないのには、辟易する)。結果的に、少年法の問題にスポットを当てているようで、さっぱり当てられていない。

自分の子供が殺されたからといって、加害者を殺しても良いか?私は必ずしも悪いとは思わない。ただ、それに至る事情や、情状酌量の余地があるとか、それこそ敵相手を間違ってしまうとか、色々な歴史や考えを経て今の制度がある。それ自体は尊重しなければいけないわけで、仮にその制度が実態や国民のニーズに沿っていないというならば、地道に我々が法を変えればいいだけ。はっきりいってそれが答えなのだが。

でも、自分の命を賭してでも復讐を遂げたいという人がそれを“やること”自体は止められない。死には死をもって報いてもらう。結果的に罪を犯すことになる私を社会が受け入れないというならば、それに対するいかなる罰も甘受する。だからやらせろとなると、良いも悪いもない。あとはやる方と止める方がガチンコでぶつかるだけの話。

警察機構を超えた存在があれば、スッキリするのに…という考えはダレにでも浮かぶ。そういういう一種の問題提起から作られる物語っていうのは、『必殺仕事人』や『ワイルド7』や『ハングリー・ラビット』みたいな、法を超えた組織を主人公したお話になっていく。特撮ヒーローものだって、水戸黄門だってある意味、この範疇のお話だ。
だから、単に“復讐者”を応援するだけのお話になると、凡作になっちゃうので、それだけは避けなければいけなかったのに…。

さらに、稚拙極まりなかったのがラスト。
空砲だったよ…じゃなくて、弾は入って無かったよ…じゃないのかよ。途中で空砲を入手するなんて難しくないか?ペンションの親父が空砲を入れてた?それもおかしいでしょ。
まあ、空砲を見つけたという設定だとしよう。だとしても、二発入っているとわざわざペンションの親父に台詞をいわせているのだがら、川崎で空砲を一発撃って、警察に本気だと思わせる…っていう演出をすべきだろう。ほんとに稚拙。

原作を無視していいならば…、長峰重樹から託された若い刑事は、審判の結果、少年がほとんど罪に問われないをいう結果を知り、長峰重樹の意思を継いで、法廷で犯人の少年のを殺す。このくらい私ならやるけどね。そのためには、若い刑事にも長峰重樹に強いシンパシーを感じる過去設定が必要だけど。

まあ、とにかく、中途半端な作品だった。

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image1549.png公開年:2009年
公開国:日本
時 間:139分
監 督:中村義洋
出 演:堺雅人、竹内結子、吉岡秀隆、劇団ひとり、柄本明、濱田岳、渋川清彦、ベンガル、大森南朋、貫地谷しほり、相武紗季、永島敏行、石丸謙二郎、ソニン、でんでん、滝藤賢一、木下隆行、木内みどり、竜雷太、伊東四朗、香川照之 他
コピー:無実の男、首相暗殺犯に断定
事件のガギを握るのは、ビートルズの名曲


仙台の運送会社に勤務する青柳雅春、30歳。総理大臣が地元パレードを行う日に、大学時代の友人・森田から釣りに誘われる。しかし、森田は一向に釣りに向かう様子はなく、それどころか青柳を薬で眠らせた後、“オズワルドにされるぞ”と警告するのだった。その直後、パレード会場で爆発が発生。直後に青柳と森田の前に警官が詰め寄り、躊躇なく発砲される。青柳が反射的に逃走するとその直後に、森田が残っていた車両も爆発。やがて、捏造された証拠によって、自分が首相暗殺犯に仕立てられていることを知り…というストーリー。

サスペンスからはみ出た笑いを愉しむというスタンスは、非常に好み。『フィッシュストーリー』に匹敵する満足度が得られたのだが、いささか始めの30分がモタツキすぎ。近年の日本人監督に共通することなのだが、「ちゃんと伝わってるかな?」「ここ見落とされないかな?」と自信がないのか、テンポを阻害してまで、まどろっこしい演出や過剰な説明を入れるケースが多い。
冒頭でグッと観客を気を掴むのは、非常に重要。この監督がその重要性を理解しているのかどうか、甚だ疑問に感じるほど。本作の冒頭30分で、私が観るのを中断したのは、なんと3回。これから事件に巻き込まれるという流れで、いかにもおかしなことがおこるぞという、雰囲気を必要以上に漂わせることに何のメリットがあるのか。
#TV放映したら、始めの30分でガクンと視聴率さがると思うよ、これ。視聴者を引き止める力がない。
好みの問題といえばそれまでだが、吉岡秀隆と劇団ひとりの演技は、ノリの阻害要因として負の活躍をしていたと思う。その演技がミスリードに効果的に働いているわけでもなく、雰囲気に助力しているわけでもなく、ただただ自分の演技をしただけ。作品全体にチームプレーとして参加していない、ダメ仕事だったと感じる。

完全にストーリーの構図が確立された後は、非常におもしろくなる。これは監督の力というよりも、原作の力だろう。ラストの、自分が生きていることを伝えていく様子なんか、非常に見事だと思う。

あらゆる登場人物が、本当に見方になってくれるのか、やはり今の生活のために裏切るのか、はたまた元々“敵”のサイドなのか。
竹内結子が演じる樋口晴子というキャラクターが一番魅力的。思わず好きなってしまいそうなほど、魅力的。飄々とした役柄に竹内結子はマッチしているのだろう。その他、柄本明、濱田岳が演じた役もアウトローでありあながら共感できる素敵なキャラクターに仕上がっている。
香川照之や永島敏行演じる屈強な警官も、同じように魅力的になり得たはずなのだが、単なる悪役としてしか描けなかったのは監督の力不足だと思う。

純粋なサスペンスとして捉えてしまうと、事件の黒幕は明かされないし、本人の人生がめちゃめちゃになってしまったことには変わらないし、一矢報いたとも言いがたいので、不満足に感じた人も多いだろう。その不満は正しい。
原作的には、伊坂幸太郎の世界観の中の1ページでしかないので、本作できれいに完結する必要はまったくない。しかし、映画は一期一会。この一作で、すっきり終わらせるべきなのは事実。そこに折り合いをつけるのも、監督と脚本家の仕事だとは思うが、うまくはいっていないということ。

ただ私には、サスペンスだからといって、判で押したようにきれいに全ての謎を解決するだけが能ではないという思いもある。得体の知れない巨大な力に対して、市井の人がどういうしたたかさを見せるか…、そういう焦点の当て方は好きだ。そのために、巨悪はびこる社会っていうのを放置したとしても許容できる。まあ、その“市井の人”ってのに焦点を当てきれていないのが、本作の最大の難点なんだけどさ(だから、ご都合主義的に感じるの)。

良作っていいたいんだけど、ひっかかる。私は原作は読んでいないんだけど、このオモシロさを味わうには、原作を読んだほうがいいんじゃないか?そんな気がするんだもの。

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プロフィール
HN:
クボタカユキ
性別:
男性
趣味:
映画(DVD)鑑賞・特撮フィギュア(食玩/ガシャポン)集め
自己紹介:
一日一シネマ。読んだら拍手ボタンを押してくだされ。
出張とか入ると、投稿は遅れてしまいますわ。
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