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公開年:2005年
公開国:アメリカ
時 間:103分
監 督:ノーラ・エフロン
出 演:ニコール・キッドマン、ウィル・フェレル、シャーリー・マクレーン、マイケル・ケイン、ジェイソン・シュワルツマン、ヘザー・バーンズ、クリスティン・チェノウェス、ジム・ターナー、スティーヴン・コルバート、デヴィッド・アラン・グリア、スティーヴ・カレル、エリザベス・モンゴメリー、ディック・ヨーク、リチャード・カインド、エイミー・セダリス 他
受 賞:【2005年/第26回ラジー賞】ワースト・スクリーン・カップル賞(ニコール・キッドマン)
コピー:愛という、永遠の魔法。
普通の恋。それは、たったひとつ叶わない夢。
魔女のイザベルは、普通の生活・恋がしたいと人間へ。一方、落ち目の俳優ジャックのもとに、TVドラマ『奥さまは魔女』のリメイクでダーリン役が舞い込んでくる。このドラマに復活をかけるジャックは、自分が目立つようにサマンサ役に新人女優を起用するよう要求するが、オーディションを繰り返すものの、なかなかイメージ通りの女性が見つからない。困っていると、偶然にもイメージにぴったりのイザベルを街で目撃し、声をかける。なんとか口説き落としてオーディションを受けさせると、彼女は大抜擢されるのだった。こうして本当の魔女であることを隠して撮影に入るサマンサだったが…というストーリー。
実は、以前鑑賞したものの、あまりのつまらなさに途中で観るのをやめた作品である。なぜ、もう一度観ようと思ったかというと、昨日の『魔法使いの弟子』と似ているような気がしたから。“魔法つながり”とか、そういう単純なことではない。元になるメジャーな作品があり、それをそのままリメイクするのではなく、かなりカスタマイズしている点。大筋のプロットはしっかりしているのに、端々の味付けがてんでなっていない点。盛り上がるべきとところで盛り上がらず、時間とともにキレイに尻すぼみになる点…である(要するに企画倒れってことかな)。
くたびれたダメ男の役が登場するのは悪いとは思わないが、ウィル・フェレルなのは納得いかない。ダメ男だけど女性からみたら可愛いところもあって憎めないわ…っていうキャラがよいのであって、ウィル・フェレルは本当にくたびれてるおっさんである。イザベルが恋に落ちるのも判らないでもない…っていう部分がないと成立しないと思うのだが、女性の方々は共感できたのだろうか。
#ウィル・フェレルに、私は“日本未公開男”の称号を与えている。
では、恋愛要素がだめなら、ドタバタ要素で愉しませるしかない。しかし、勝手に勘違いして、勝手に変な魔法をかけて、勝手に騒いで、これじゃただのノイローゼ人間の所業。おもしろくもなんともない。魔法のお話というのは、オールマイティーな能力なだけに、話をどうにでももできちゃうという落とし穴がある。だから、魔法じゃどうしようもない条件や弱点を付けたり、もっと強い敵の設定をつくったり、その落とし穴にハマる危険を避けるように腐心するのが普通である。それなのに本作は、安易に話を転がして、次々と落とし穴にハマり続け、観進める度に、もうどうでもいいや…という気分にさせてくれる。
終盤は網膜に画像が映っているだけで、内容が一切頭に入らなかった。父親とおばさん女優の関係はどうなった?ドラマはその後どうなった?結局、お互いをどう理解したんだっけ?思い出そうとしてもしっかり思い出せないくらい。
結局は、メッセージ性が何もないと、人を二時間集中させることは難しいってこと。『魔法使いの弟子』も同様だね。もちろんお薦めするわけが無い。
#まあ、ニコール・キッドマンがかわいいと思える、最後の作品ではある。
公開年:2010年
公開国:アメリカ
時 間:110分
監 督:ジョン・タートルトーブ
出 演:ニコラス・ケイジ、ジェイ・バルシェル、アルフレッド・モリナ、テリーサ・パーマー、モニカ・ベルッチ、トビー・ケベル、オマー・ベンソン・ミラー、アリス・クリーグ、ジェイク・チェリー、ペイトン・ロイ・リスト、ニコール・インガー 他
コピー:この夏、ディズニーが贈るNY魔法大戦争!
太古より続く魔法使い同士の争い。善の魔法使いマーリンの弟子バルサザールは、同じく弟子で恋人のヴェロニカの犠牲により、邪悪な魔法使いモルガナを封印する。完全にモルガナを殺すことができるのは、真の後継者であると言い残しマーリンは死去する。それからバルサザールは1000年にわたって“選ばれし者”を探索し続けた。そして、原題のニューヨークでついに発見するも、その青年デイヴは物理研究に没頭するオタク大学生。バルサザールは強引に自分の弟子にして、特訓を開始するのだが…というストーリー。
こりゃ多分ダメだろうなと思いつつ鑑賞。案の定、冒頭の4分程度の説明からしてさっぱりピンとこなくて、もう、ダメだこりゃ状態。ジェリー・ブラッカイマー製作なのだが、まわりくどい説明が必要な作品はブラッカイマーには向いていないんじゃないかな(ましてや子供向けなら)。
いい魔法使いと悪い魔法使いがいて…まではよい。でも、世界征服が目的ってもっともらしいけど、悪い魔法使いは具体的に何をどうしたいのやら。争う大義も私怨もよく見えてこないから、『ハリー・ポッター』のように感情が揺れることもない。小ネタ大ネタのバランスが悪いし、効果的な伏線もない。
逆に、魔法の面白さを映像的に愉しむことが主眼だっとしても、ワクワクするヴィジュアル表現でもない(警官に化けるところとか普通の姿に戻るところは表現せずに、編集で繋ぐセンスってどうなんだろうね)。
おまけに、修行シーンが冗長で実につまらなくて、全体のテンポを阻害している。『ファンタジア』のミッキーの魔法使いの弟子のように、リズミカルに愉しくモップたちが動くのを期待した人は多いと思うのだが、バタバタととっちらかしただけ。あそこを愉しく表現してこそリメイクの意味があるんじゃなかろうか。
とにかく、盛り上がる部分もメリハリも無くて、挙句の果てには、終盤寝てしまうほどの緊張感の無さ。赤点ギリギリの作品で、新作料金でレンタルすると損したと思うだろう。お薦めしない。続編を臭わしているのが恥ずかしくなる作品。
#プラズマは物質じゃなく状態です。
公開年:2009年
公開国:アメリカ
時 間:109分
監 督:ジェイソン・ライトマン
出 演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、ジェイソン・ベイトマン、ダニー・マクブライド、メラニー・リンスキー、エイミー・モートン、サム・エリオット、J・K・シモンズ、ザック・ガリフィナーキス、クリス・ローウェル、スティーヴ・イースティン、アディール・カリアン 他
受 賞:【2009年/第76回NY批評家協会賞】男優賞(ジョージ・クルーニー)
【2009年/第35回LA批評家協会賞】脚本賞(ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー)
【2009年/第67回ゴールデン・グローブ】脚本賞(ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー)
【2009年/第63回英国アカデミー賞】脚色賞(ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー)
【2009年/第15回放送映画批評家協会賞】脚色賞(ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー)
【2010年/第19回MTVムービー・アワード】ブレイクアウト・スター賞(アナ・ケンドリック)
コピー:あなたの“人生のスーツケース”詰め込みすぎていませんか?
企業の解雇通告を代行する会社に勤務し、一年のほとんどが出張の男ライアン。その経験を公演で披露することも多い彼のポリシーは“バックパックに入らない人生の荷物は背負わないこと”。その通りに、仕事も淡々と消化し、結婚願望も持たず親族とも距離を置く人生で、人生の目下の興味事は1000万マイル貯めること。そんなある日、出張先のバーで同様に主張で飛び回っているキャリアウーマンのアレックスと意気投合し、割り切った関係を楽しむ間柄に。一方会社では、新人ナタリーが入社早々に提案したネット上で解雇通告するシステムが採用されてしまい、出張が廃止されそうになってしまう…というストーリー。
飄々としたジョージ・クルーニーの演技もよかったが、ヴェラ・ファーミガとアナ・ケンドリックのデキもなかなかよろしい。『ディパーテッド』のヴェラ・ファーミガは、影や裏のある現役女を演じさせたらピカイチだし、『トワイライト』シリーズのアナ・ケンドリックもなかなか腹立たしいクソ娘を好演(『トワイライト』でも若干ムカっとくる役で同じなんだけど)。おかげで、判った上でドライなのか、何も知らずにドライなのかのコントラストはをはっきりさせる一助になっている。脚本の評価が高いのも、彼らがしっかり演じてくれたからこそである。
男性目線だと、ライアンという人物はなかなか共感できると思う。言動が子供っぽいと思う人がいるのかもしれないが、男側から言わせてもらえば、世の中の男の半分はこんなもんだ。そして、周りの女の影響で、頑強に見えるポリシーがあっさり揺らぐのも、大抵の男はそんなもんだ(笑)。
出張が長く続くと、マイレージやらサービスポイントにこだわりを持っちゃうのも経験上よくわかる。ホテルではどうがんばっても日常生活を補うことはできないので、空虚な日々になる。仕事をしてるならまだしも、土日またぎの出張で休日を過ごすなんて、1回や2回ならまだしも、金があって好き勝手できるならいざしらず、そうでもなければ、楽しんだ分以上の疲労と虚無感が待っているだけ。
かといって、いい歳をしたおっさんが、そうそう生活リズムを変えることはできないわけで、それを自分の部屋にミニボトルでサラっと表現するのも上手。そこに、妹の婚約者ジムが怖気づくエピソードを挿入するのもまた巧み。先がわからないことが不安だと思われがちだけど、先が見えることのほうがよっぽど恐ろしい。人生の意味を見失うからね。その彼を説得することで自分も変化するのだが、まるで心理学の治療みたいだ。脚本家は心理学でも専攻してたんじゃなかろうか。
いや、でもさ。独身だからよかったけど、既婚者だったらそんな逃げ道はないよね…な~んて思いながら観てたら、シカゴはそういう展開かぁ…。脚本家さんも考えることは一緒だったわね。
これだけ軽い内容なのに、とにかくリズムがいいので、かなり内容に引き込まれる。最後の手の差し伸べ方もほどよくって、こりゃあ、ちょうど良い加減のウマい作品に出会ったなぁ…なんて思っていたら、気になる点が一つ。
大事なのはお金なのか家族なのか…って、どっちもほどほどに必要だって、みんな答えはわかってるはずなのに、なんでどっちかを選ぼうととするのかね…なんて考えていたら、最後の方で、乗り越えた人に語らせる場面が。この部分だけは蛇足も甚だしい。そんな簡単な話じゃないっていってたくせに、家族に救われた…みたいな話に集約させるって、観覧者への裏切り行為にも等しいと思うのだが。
これは、監督や脚本家以外の誰かが、無理やり挿入させたんじゃないのかね。あまりにもバランスを欠く。この部分だけでマイナス30点。A-だったのにBまで落ちたんだけど、まあ、良作なのでお薦めするけど(何なら、エンドロール前でリストラされた人のインタビューっぽくなったら、停止ボタンを押せばいいと思う)。
公開年:2008年
公開国:イギリス、アメリカ
時 間:120分
監 督:ダニー・ボイル、(共同監督)ラヴリーン・タンダン
出 演:デヴ・パテル、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピント、アニル・カプール、イルファン・カーン、アーユッシュ・マヘーシュ・ケーデカール、アズルディン・モハメド・イスマイル、ルビーナ・アリ 他
受 賞:【2008年/第81回アカデミー賞】作品賞、監督賞(ダニー・ボイル)、脚色賞(サイモン・ボーフォイ)、撮影賞(アンソニー・ドッド・マントル)、作曲賞(A・R・ラーマン)、歌曲賞(詞:Gulzar“Jai Ho”、曲:A・R・ラーマン“Jai Ho”曲/詞:A・R・ラーマン“O Saya”、詞:Maya Arulpragasam“O Saya”)、音響賞[調整](Ian Tapp、Richard Pryke、Resul Pookutty)、編集賞(クリス・ディケンズ)
【2008年/第43回全米批評家協会賞】撮影賞(アンソニー・ドッド・マントル)
【2008年/第75回NY批評家協会賞】撮影賞(アンソニー・ドッド・マントル)
【2008年/第34回LA批評家協会賞】監督賞(ダニー・ボイル)
【2008年/第66回ゴールデン・グローブ】作品賞[ドラマ]、監督賞(ダニー・ボイル)、脚本賞(サイモン・ボーフォイ)、音楽賞(A・R・ラーマン)
【2008年/第62回英国アカデミー賞】作品賞、監督賞(ダニー・ボイル)、脚色賞(サイモン・ボーフォイ)、作曲賞(A・R・ラーマン)、撮影賞(アンソニー・ドッド・マントル)、編集賞(クリス・ディケンズ)、音響賞(Ian Tapp、Tom Sayers、Richard Pryke、Resul Pookutty、Glenn Freemantle)
【2009年/第22回ヨーロッパ映画賞】撮影賞(アンソニー・ドッド・マントル:「ANTICHRIST」に対しても)、観客賞
【2008年/第14回放送映画批評家協会賞】作品賞、若手俳優賞(デヴ・パテル)、監督賞(ダニー・ボイル)、脚本賞(サイモン・ボーフォイ)、音楽賞(A・R・ラーマン)
コピー:運じゃなく、運命だった
インドでは、クイズ$ミリオネアが大人気。この日、ムンバイのスラム出身の青年ジャマールが、難問を次々にクリアして、ついに最終問題まで到達。そこで、放送時間が終了しその日の収録が終了。スタジオを出たところで、イカサマの容疑で警察に逮捕されてしまう。まともな教育を受けたこともない人間が回答できるはずがないと決めつけ、警察は拷問を繰り返すが、ジャマールはなぜ答えることができたのか、その過去を話し始める…というストーリー。
インドの児童労働や虐待、人身売買、ムスリムとヒンドゥーの対立、根強い階級差別。問題だらけの国を舞台にしたヒューマンドラマなのか?はたまた、そんな国が経済国として急進して、私たちのコストセンターとして仕事を奪い、IT立国だとかのたまっているんだぞ!なんて、自由主義や経済的視点での弾劾か?始めはそういう部分に目がいっていた。冒頭の警察官による拷問シーンを見ていると、「アジアの多くの国がそんなもんだよ…」とウンザリして、一回観るのをやめてしまったほど。
でも、たまたまそういう原作が存在しただけであって、映画を製作する側はそういう部分を見せたいわけじゃないんだ…ってことに気付いたら、途端に面白く感じてきた。ひっかかったままの人は、最後まで面白いと思えなかったはずで、本作を凡作と評価する人なんかは、その呪縛から抜け出せなかった人だろう。私は途中で気付けてよかったと思う。
欧米人(特にアメリカ人)は、あれだけグローバル社会はどうしたこうした言うわりには、他国のことは何にも知らない(教育されていない)ので、そういうことを気にして見ている人間はほとんどいなかったに違いない。イギリスだって、二重被爆者を平気で笑いものにできるレベルで、大したもんじゃない(私は総理大臣なら、国交断絶をほのめかして批判してもいいくらいだと思うけどね)。だから、始めから娯楽作モードで見ていたので愉しめたんだろう。それがこの受賞のオンパレードに繋がっていると思う。
だから、こういう作品にアカデミー賞を挙げるくらいなので、アメリカ人は世界の現実を理解しているんだなあ…なんて考えは間違い。そういう部分をまったく観ていない結果でしょう。
不正をした司会者や、違法な取調べをした警官に対して、勧善懲悪で痛い目にあわせるような展開が一切なくて、かえって、それが若さゆえの疾走感と一途な思いを表現する一助になっている。ここに『トレインスポッテイング』のダニー・ボイル監督をもってきた製作側のセンスがすごくて、本作ヒットのMVPは彼にオファーした人である。
複数の時間軸と行ったり来たりする表現は多用されているけれど、ここまで効果的に使えているものは少ないだろう。人間の脳というのは過去の記憶と記憶(もしくは現在の状況)が繋がったときに、快感を覚える。快感の具合は記憶と記憶の距離感で決まり、その距離が絶妙な場合は“ユーリカ!!!”ってな具合で絶頂に至るわけだが、本作の現実と回想での出来事の距離感が非常によろしいのだ。
とにかく社会的に高尚な視点を捨ててから観はじめることをお薦めする。そして始めの20分はイライラするかもしれないが、騙されたとおもって観続けてほしい。そうすれば近年稀に見る娯楽の秀作が登場するはず。お薦め。
公開年:2007年
公開国:ポーランド
時 間:122分
監 督:アンジェイ・ワイダ
出 演:マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ、マヤ・コモロフスカ、ヴワディスワフ・コヴァルスキ、アンジェイ・ヒラ、ダヌタ・ステンカ、ヤン・エングレルト、アグニェシュカ・グリンスカ、マグダレナ・チェレツカ、パヴェウ・マワシンスキ、アグニェシュカ・カヴョルスカ、アントニ・パヴリツキ、クリスティナ・ザフファトヴィチ 他
受 賞:【2008年/第21回ヨーロッパ映画賞】エクセレント賞(Magdalena Biedrzycka:衣装デザインに対して)
コピー:明日を生きていく人のために そしてあの日 銃身にさらされた 愛する人のために
1939年9月、ポーランドは密約を結んだナチス・ドイツとソ連によって攻撃さて、全土が分割占領される。政府はロンドンに脱出し亡命政府を結成するが、武装解除されたポーランド軍人や民間人は両国の捕虜となってしまう。アンナの夫であるポーランド人将校のアンジェイやその友人イェジたちはソ連の捕虜となり収容所へ。アンナと娘のニカはソ連領に取り残されたが、その後ポーランドに脱出。アンジェイの親元に非難したものの、義父はドイツ軍に逮捕され収容所で絶命。アンナとニカと義母はアンジェイの帰還を待ち続けるが、1943年4月、ドイツ軍は、ソ連領のカティンで多数のポーランド人将校の遺体を発見したと発表する…というストーリー。
昨年、カティンの森事件の被害者を追悼する式典に向かったポーランド政府専用機が墜落し、ポーランド大統領らが死亡する事故があったが、そのニュースではじめて“カティンの森事件”という単語を聞いた日本人も多かろう。
人間の歴史において、数々の惨殺事件は発生したが、その発生から事後にわたって、その経過は大変特異。そして、ポーランド民族の心に、いまだに大きな傷を残しているといえるのだが、この映画を観れば、その事件の詳細が良く判るか?と聞かれれば、否としかいいようがない。本作は、カティンの森事件のあらましを知っている人、もしくは学校で教えてもらったけど実のところ良く知らないんだよね…という人を対象にした作品。つまり、ポーランド国民、もしくはその近隣の人々を対象にした作品で、事情を知らない人は、わかりにくいと思われる。
私の理解している範囲で事件の流れを書くと…。
まず、この事件の主役はスターリン(だと思う)。共産主義陣営を拡大するには、ナチスも邪魔だし、すぐ隣で民主主義・自由主義を掲げるポーランドも邪魔。どちらも潰したいスターリンは、まずナチスと手を結びポーランドを攻撃し占領。ポーランド軍の捕虜はポーランド・ソビエト戦争時の恨みがあったので虐殺。その罪をナチスに着せて国際的に非難されるよう仕向ける(もちろんナチスは否定)。第二次世界大戦が終わってもソ連は事件の犯人であることを認めない。ご存知のとおりポーランドは共産圏でソ連の傀儡政権のような時代が続いたため、この事件は長らくタブー視され解明されることはなかった。そして、冷戦が終わった後になってようやく調査・研究が行われソ連の反抗であることが判明。最近になってスターリンの仕業だったことを、ロシアが声明するに至る。
もちろん事件自体も悲惨なのだが、この事件で一番悲惨なのは、ポーランド人が被害者であったのに、同じポーランド人がソ連に従属し、この事件を闇に葬ろうとしたことである。ソ連の恐怖に屈服し同胞を苦しめるという構図。これ以上の民族的な悲劇はないだろう。
ちなみにお隣韓国では、親日派を恨むがあまりちょっとでも日本に関係があった人は弾圧されるなど、同様に同胞を苦しめているので、似た状態かもしれない。さらにおかしなことになっているのは、本当は親日派を恨んでいるのだが、同胞を恨めとは言いにくいので、日本を恨めと教育してしまい、子供の世代は日本を恨むようになってしまった。親世代は「こんなはずではなかった。まずいことになってるな…」と思っているかもしれない。
閑話休題。
そして、事件が明らかになっても、ロシアは“ソ連のやったことだから俺らは関係ねーよ”と謝罪を拒否するという、更なるむなしさ。
で、本作は、生きるためとはいえ心を失ってまで生き残ったポーランド国民よ…という嗚咽のような作品なのだ。ポーランド国民や近隣の関係国には、観ているだけで鈍痛がするような重みを与えるのだろうが、根本的に事件のあらましを知らなければ、その響きも半減する。さらに、ソ連語、ドイツ語、ポーランド語の違いや軍服の違いなど、ピンと来ない人は、どこがどこの国に占領されているのかも混乱してしまうかもしれない(こういう私も、分割統治の線引きがピンとこなかった)。
歴史の教科書として学生に見せたくなるのだが、ちょっと勉強させないといけないだろうし、やはり他国のこと…というスタンスになってしまったら、“映画仕立ての再現フィルム”という印象で終わってしまうかもしれない。意味のある作品だとは思うけれど、お薦めは非常にしにくい作品。
公開年:2009年
公開国:日本
時 間:202分
監 督:若松節朗
出 演:渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二、香川照之、木村多江、清水美沙、鶴田真由、柏原崇、戸田恵梨香、大杉漣、西村雅彦、柴俊夫、風間トオル、山田辰夫、菅田俊、神山繁、草笛光子、小野武彦、矢島健一、品川徹、田中健、松下奈緒、宇津井健、小林稔侍、加藤剛 他
受 賞:【2009年/第33回日本アカデミー賞】作品賞、主演男優賞(渡辺謙)、編集賞
コピー:魂が、震える。
国民航空の労働組合委員長を務める恩地元は、職場環境の改善を求め会社側と激しく対立したため、懲罰人事で海外赴任を命じられる。パキスタン、イラン、ケニアなど、社内規定を無視した長期の海外勤務であったが、恩地は自らの信念を曲げず任務を全うする。一方、同じく労組副委員長として共闘した恩地の同期・行天四郎は、出世と引き換えに会社側へ寝返り、エリートコースを歩みながら恩地と対立していく。10年後、恩地は本社復帰するが、当時の組合の同志たちと同様に、不遇な日々を過ごすのだった。そんな中、国民航空ジャンボ機の墜落事故が起こり、恩地は遺族係に就き、数々の悲劇に遭遇するのだった…というストーリー。
飛行機のCGがポンコツだっていう噂があったけれど、たいして気にならなかった(小さい画面で観たからかな)。
まあ、主人公の生き方がいいかどうかは、答えを出すことはできないし判断する意味もない。ただ、私が判るのは、彼は根っからの“戦士”だってこと。目の前の難局に抗うことで生きている実感を感じる人間なのだ。どんなに苦しくても、そうしなくては生きている実感がない人間なのだから、会社をやめるはずがない。どんな懲罰人事でも、それに抗わずに戦士でいることをやめることよりはよいのだ。辛いようにみえて、すべて自分で選択しているのである。
恩地の学生運動の延長みたいな組合活動の仕方にも共感できなかったし、会社側の腐れっぷりにも同様。労使のどちらにも共感できないってことは会社まるごとがクソにしか見えないわけで…。
それにしても、昨日の『マンデラの名もなき看守』と同じく、この時代の大人は、共産主義思想とは関係ないのに体制に抵抗すると“赤”呼ばわりする(私の母親もそうだったが)。いまだに、赤だ右だ左だ、的外れな形容をしてる人が多い世代で、レッテルを貼って人をカテゴライズしないと頭が整理できない人たちなんだろう。閉口する。
私は元々JALという企業が大嫌いなので、すべてが腹立たしく見えて仕方が無かった(実際JALには一切乗らない)。本作の公開にあたって、2009年の今になっても、そしてこの破綻状態の今になっても、“フィクションで金儲けをするのは遺族への配慮が欠ける”ともっともらしいことを平気でいえる会社である。大体にして、なんでJALに遺族の気持ちを代弁する資格があるというのだろう。単に自分たちに不都合な部分が扱われているのがイヤなだけなのに、遺族の気持ちを持ち出すような、そんな品性の企業に未来などあるわけがない。
末端の人たちはがんばっていると思うので気が引ける部分がないわけではないが、だからこそ、一旦潰して別会社にして再雇用すべきだったと考えている。
本作を見ると、事故の細かいディテールは記憶が薄れているなと思った。こういった表向きフィクション作品であったとしても、手に届きやすい形になっているのは意味があると思う。遺族の方々は苦しいであろうが、別に事実の隠蔽やウソをついているわけではないので、許容していただきたいものである。
この大きな原作を映画にするぞ!っていうよりも、原作を壊さないようにするぞ!ってベクトルで作られたような気がする。原作がすばらしいからそれでよかったんだろうけどね。長いことは長いが3時間超には感じなかったのはスゴイこと。
特に、最後のお遍路に回っているおじいさんに当てた手紙の内容が大変よろしい。そのシーンだけでも、私は観る価値があったと思う。まちがいなく良作(傑作じゃないんだ…(笑))。
#予言しておくけれど、いくら稲盛さんががんばってもJALはつぶれるはず。その理由の一つは、稲盛さんは無から大きくするのは得意かもしれないが、いびつな“有”を丸い“有”にするするのは決して得意ではないから(一回、潰しておけば、今頃復活していたと思う)。二つ目はLCCの波に完全に出遅れるから。そして、国民の多くは「あの時、潰しておけば…」と思うのだ。合掌。
公開年:2007年
公開国:フランス、ドイツ、ベルギー、南アフリカ
時 間:117分
監 督:ビレ・アウグスト
出 演:ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバート、ダイアン・クルーガー、パトリック・リスター、テリー・フェト、シャイロ・ヘンダーソン 他
コピー:27年間囚われた、のちの南アフリカ初の黒人大統領。今、秘められた感動の実話が明かされる。
あなたに逢って、知った。世界は間違いだらけだと──
1968年、アパルトヘイト政策下の南ア。ジェームズ・グレゴリーはコーサ語を解することを買われ、反政府運動の首謀者ネルソン・マンデラの看守に抜擢される。彼に与えられた仕事は、マンデラたちの秘密の会話や手紙の内容をチェックし、情報を得ること。しかし、マンデラに長く接するうちに、彼に対する見方がかわりはじめ…というストーリー。
ネルソン・マンデラの承諾を得て映画化をした点を全面にアピールした作品。原作は主人公の看守さんなわけだし、マンデラの大統領就任式に呼ばれるくらい懇意な間柄なのだから、別に、アピールしなくても誰もウソだとは思わない。そんなことわざわざ前面に出さなくてもいいのでは?と思うが、それは、作品自体が興行的に当たりそうも無い地味なものだったからかも。
また、逆に言えば、マンデラの承諾があったということは、マンデラ側に不都合なことはあまり描かれていないとも捉えることができるので、描かれていることをすべて鵜呑みにするのは危険かもしれない。
ただ、誤解をされてはいけないので断っておくが、映画自体の質は良い。マンデラがアパルトヘイトに抵抗して長く投獄され、釈放後に大統領になったことまでは誰でも知っているだろう。アパルトヘイトの様子や、マンデラがどういう活動をしていたのか(なかなかの武力闘争を指揮していたこと)、27年間の獄中生活はどのようなものだったのかなどがよく判り、映画でありながら一級の資料といってもよい。
大昔『遠い夜明け』というアパルトヘイトを扱った作品を観たが、若くてアホだった私はまったく消化することができなかった。判りやすさという点では、本作は非常に質が良い。
どうも1900年代の中盤は、共産主義を敵だといいながら共産主義の何たるかを理解していない輩が世界中にいた時代のようだ。敵がわからないのだから敵を倒せるわけもなく、いつまでも泥沼状態なのは当たり前だと思うのだが。実に不思議な現象で、それが大衆を抑圧したい側の道具として利用され、何もわからない民衆が巻き込まれていくのも共通していて、興味深い。
看守の心の変遷は表現されているのと同様に、マンデラだって大きく変わったはずなのだが、まるで始めから聖人のように描かれていて、その心の変化は見えてこない。この点は実に不満で、本作を平板な印象にしている原因だと思う。
また、日本(特に日本の商社が)がアパルトヘイト下の南アから“名誉白人”とされていたことなども描かれていない。この歴史的事実は、とてつもなく恥ずべきことだったと、今後、今以上にクローズアップされることだろう。
観終わって思ったのだが、本作を観てから『インビクタス/負けざる者たち』を観るのが正しかったと思う。この流れで観ることを是非お薦めする。より“赦し”の大切さを強く感じられるはず。
公開年:2003年
公開国:アメリカ
時 間:100分
監 督:アンドリュー・スタントン
出 演:アルバート・ブルックス、エレン・デジュネレス、アレクサンダー・グールド、ウィレム・デフォー、ブラッド・ギャレット 他
受 賞:【2003年/第76回アカデミー賞】長編アニメ賞
コピー:ニモがさらわれた――。
海中に生きる3兆7千億の魚の中からたった一匹のかけがえのない息子を探すために、父マリーンの冒険が始まる
オーストラリアの海の底で、たくさんのカクレクマノミの卵が孵化しようとしていたが、カマスに襲われ、多くの卵と母親の命が奪われた。助かった卵は1つだけ。父親マーリンは、生き残った子に“ニモ”と名付けて過保護に育てていく。やがて6歳になったニモが学校へ行く日がやって来たが、その初日、人間のダイバーにさらわれてしまう。マーリンはニモを取り戻す旅へと出るのだったが、その途中、陽気なナンヨウハギのドリーと出会い…というストーリー。
偶然だけど、ドリーが記憶喪失気味な設定が、先日の『ガチ☆ボーイ』とダブったせいで、彼女(?)を単なるボケ役と受け止められず、あまり楽しめなかった。同様に、ニモの片ヒレが小さいのも、ハンディキャッパーの設定なのだが、それに関してグっときたりほろりとくる場面もなくて、あまり生きていない設定だと思う。
CGの美しさはピクサー作品随一。イソギンチャクやクラゲの揺らぎ、光の反射など、本物を見紛うほどのできばえ(まあ、本作の技術目標ポイントはそこだったんでしょうけど)。
#DVDだとモアレが出てしまっているので、本作こそブルーレイで観たいところ。
しかしながら、それと反比例するようにストーリーは凡庸で、『モンスターズ・インク』や『トイ・ストーリー』に比べると、ヒネりも刺激も少ない。100分の収録時間が120分以上に感じられたのは、同じような粒具合のエピソードの繰り返しだから。すべての演出が小波の繰り返しなので、もう1本別のウネリがあれば、メリハリが出来たかもしれない。
大人の鑑賞に堪えるかどうかは微妙なところで、ピクサー映画を観るなら他のほうがいいとおもうし、海の美しさを見るなら環境ビデオでも観ればいいと思う。よほどなにか惹かれるところがあるなら別だが、そうでなければ観なくていい作品だろう。
#吹替えの木梨憲武は、声質はすごくマッチしているのだが演技が単調で飽きる。
公開年:2010年
公開国:アメリカ
時 間:118分
監 督:ジョー・カーナハン
出 演:リーアム・ニーソン、ブラッドリー・クーパー、クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン、ジェシカ・ビール、シャールト・コプリー、パトリック・ウィルソン、ジェラルド・マクレイニー、ヘンリー・ツェーニー、ユル・ヴァスケス、ブライアン・ブルーム、モーリー・スターリング、テリー・チェン、オマリ・ハードウィック、ダーク・ベネディクト、ドワイト・シュルツ 他
奇抜な戦略家のリーダー・ハンニバルを筆頭に、色男フェイス、怪力男B.A.、パイロットのマードックの一癖あるメンバーで結成された特殊部隊Aチーム。結成して8年、彼らは数々のミッションをこなしてきた。ある日、ドル札原版を所持しているテロ集団の情報を入手し、それを一掃して原版の奪還に成功するAチーム。ところが、その直後に上官である将軍が爆死し、その上に原版も何者かに持ち去られる。4人は軍法会議にかけられ、階級を剥奪され別々に監獄送りに。収監されて半年後、持ち去られた原版で刷られた紙幣が見つかったとの情報を掴み、汚名返上のために脱獄を図るが…というストーリー。
昔、夕方とかに再放送していたTV版もかすかな記憶しかないんだけど、テロ撲滅とか、こんなに公益のために熱くなる人たちだった?もっと、私的な情とかで動いていたような気もするけど?なんて思っていたけど、始めはそういうスタンスだったってことなんだね。
ボスコ(日本名だとコングか)の飛行機嫌いの理由まで説明してくれちゃって、Aチームビギニングってところですな。まあ、今回は顔見世興行みたいなもので、次作からが本番開始。あと2作くらい続編をつくってもいいでしょう。
政治的なギミックなんて、適当極まりなくて、何一つ社会情勢を理解している必要なし。肝心の最後の作戦とかも、何をしようとしているのかよくわからないんだけど、すべて行き当たりばったりみたいなもんだし、とにかく痛快・奇策・ベタな展開の連続。日頃のムシャクシャを何も考えずに解消するための優秀なツール。とにかく燃える。ヘタすりゃ、途中から観ても、満足できるんじゃないかってほど。
リーアム・ニーソンのくたびれかたがちょっと足りなくて、元気良すぎな気はする。でも、『ダークマン』とか『SWエピⅠ』とかアクション系はチョコチョコ出ていて、きっと本人は元々好きなんだろうね。やっと、アクションの当たり役ができて喜んでいるんじゃないかな。
とにかく、脳ミソゆるゆる、ストレス解消には、お薦め。
#エンディング後のおまけ映像には、ミスターTも出て欲しかったわね。
公開年:1926年
公開国:ドイツ
時 間:104分
監 督:フリッツ・ラング
出 演:アルフレート・アーベル、ブリギッテ・ヘルム、グスタフ・フレーリッヒ、フリッツ・ラスプ、ルドルフ・クライン=ロッゲ 他
労働者達は地下深くでの生活を強いられ、家畜同然の労働をさせられている。一方資本家たちは、地上で楽園のような生活をおくっている。ある日、偶然にも社長の息子が地下に降りて、労働者たちの悲惨な生活を見てしまう。そこでは、労働者の娘マリアが、労働者と資本家の間に、人間らしい心の絆が必要であることを説き、目覚めた労働者たちのストライキの気運が醸成されていた。それを察知した社長はマリアを監禁し、彼女そっくりの人造人間を地下に送り込み、労働者達をコントロールしようと考えるのだが…というストーリー。
淀川長治総監修の世界クラシック名画100選集のうちの1本に本作が入っているのだが、その収録時間は94分ほど。BSで放送されるのは2時間ほどで、違う版なのか?と思い、見せていただいた。
さて、このBSで放送されたのは何版か。放送の冒頭では、“現存する部分を編集し原版に近づけたものである”とある。さらに“オリジナルの字幕に加え、紛失した部分を原作で補い、物語の助けとした 映像の欠損部分は黒いフィルムを挿入してある”とのこと。
完全版に近い2008年の150分版ではもちろんない。2002年に新発見フィルムを再編集した版というのが123分なので、これだろうか(しかし放映時間が正味二時間未満だったので、微妙に違うような)。もちろん、1984年のジョルジオ・モロダー版ではない(ウィキペディアで調べると、ロック調の音楽で一部カラー版とあるので)。DVDは字幕が英語だからアメリカ版か?でも最後、社長と労働者は握手してるぞ。あれ?根本的に淀川長治総監修のDVDは何版だよ?!う~ん。結局、どういう版なのか全部わからなくなる始末(笑)。ご存知の方がいたら教えて欲しい。
#ちなみのDVDの音楽はジャズ調で、BS放送はクラシック調。で、両方観たのだが、明確にどのシーンが追加されたのか良く判らなかった。短い方がテンポが良くてまとまりがいいかもしれない。
ただBSで放送されたものは、なんといっても、DVD(おそらくパブリックドメインになったフィルムをそのままDVDにしたもの)よりも、格段に画質が良かった。DVDでは、評価の高い美術部分がぼんやりしてさっぱりわからないのだが、BS放送ではクッキリはっきりで、「こんな綺麗だったのか!!!!」といたく感動。『砂の惑星』に劣らない、直線と曲線の美学の素晴らしさよ。いやあ、良いモノを観た。
#DVDは観続けるのがつらくなるほど画質が汚い。
『戦艦ポチョムキン』と同様で、当時の資本主義と共産主義の対立構造をテーマにした作品で、同時の社会情勢がよくわかる一本。いささか抽象的な表現が過ぎる気もするが、無声にもかかわらずストーリー構成もわかりやすく、あまり説明を読まなくてもスッと入ってくる点は秀逸。
どちらかといえば共産主義を良しとしているように見え、これからナチスによる国家社会主義に向かおうとする国でつくられた映画というのが、興味深い。別に明示的にナチスや共産主義を賛美しているわけではないが、こういう視点の作品がヒットする土壌というのが、全体主義の悪魔に付け入る隙を与えるのだな…と。単なる身近な生活の不満を体制の責任と断罪し、体制を倒すぞ!と息巻いて無法を働く民衆というのは、悪魔にとってはおいしいエサということだ。
#さてさて、昨今のエジプトには、どんな悪魔が寄って来ることやら。
現在の状況への不満だけで政権交代をさせて、「やってやった!」感まるだしだったここ数年の多くの日本人も、似たようなものか。子供手当て以上に増税されることなど、初めからわかっていたのに、いまになって平気の平左で「話が違う」とブーブー言っている姿が滑稽でならない。おめでたい人ばかり。
まあ、そういう人々にはいくら正論をいっても無駄なことはわかったし、大衆とはそういうものなんだ…と勉強になったと、思い込むことにしている。
本作を観ていると、多分、日本でも悪魔がペロペロ舌なめずりしているんだろうな…と。いまだに大連立の話が出るものね。いまや各界で主導権を握る“学生運動からの転向組”の眠っていた遺伝子が発動しはじめるのかもしれない。
なにか、今の社会情勢を踏まえて改めてみると、妙に感慨深い作品。軽くお薦め。
公開年:2008年
公開国:日本
時 間:121分
監 督:小泉徳宏
出 演:佐藤隆太、サエコ、向井理、仲里依紗、川岡大次郎、瀬川亮、西田征史、中谷竜、小椋毅、久保麻衣子、 フジタ“Jr”ハヤト、宮川大輔、泉谷しげる 他
コピー:青春☆ガチンコグラフィティー。
大学生の五十嵐は、事故で頭を打ったために一晩眠るとその日の記憶が消失してしまう障碍を負ってしまった。そんな彼が、かねてから憧れていた学生プロレスに入部するが、事情を知らない部員達は快く迎え入れる。日々、プロレスの練習を繰り返し、商店街でのデビュー戦の日をむかえるが、段取りをまったく覚えられていない五十嵐はガチンコ・ファイトをしてしまう。しかし、逆にそのガチンコぶりがウケて人気者となってしまい…というストーリー。
完全に構成に失敗している作品。宣伝の段階で、記憶障碍をもった主人公であることが吹聴されているので(DVDのパッケージにも書いてる)、観る前から主人公の状態は100%わかっているにも関わらず、冒頭から40分、“なんかこの主人公の様子が変だぞ?どういうことなのかな?”って感じさせようとする演出が続く。鬱陶しくてしょうがない。
40分経過した頃に、主人公が目覚めて、部屋にはった貼り紙を見て、日記を読み返し自分の状況を知る…というシーンが出てくるのが、そこで「ああ、そういうことか!」なんて客は誰もいない。始めっからそこからスタートすべきだった。
ちょっと想像するだけで、ものすごい苦労に違いないことは判るので、①毎朝、同じ衝撃を受けて、それを受け止め、必至に読み返す、②誤魔化す事に苦労をする様子を見せる、③バレないかどうかハラハラさせる、という線で始めから流したほうがスッキリする。そうしたほうがかなり盛り上がったに違いない。元は舞台劇だったらしいのだが、その時は宣伝の仕方も違ったろうし、舞台のリアルな勢いやノリもあるだろうから、問題なかったと思うが、映画にする段階で変更を行うべきだった。
しかし、変更した後を想像すると、さすがにいくらなんでも、そんな障碍を持ちながら学生生活を送れるわけがない…という点がネックになる。まず、主人公はそんな障碍を抱えながら在学できるのか?日々の授業やテストを乗り切れるわけがなく、そのまま通わせている家族の振る舞いも有り得ない。じゃあ、五十嵐はどうやってキャンパスライフを送っているのだ?
なんとか学業の面も、これまでの知識と、テストも一夜漬けで乗り切っているのだ!とするならば、その努力シーンは壮絶なものになるだろう。でも、そっちの方がスゴイことになってしまい、学生プロレスの件がかすんでしまう。また、さすがに単独で行うには無理があるので、事情を知っている協力者が必要だろう。しかし、それでも家族が大学に通わせ続けるのには、無理があるかな。
休学中っていうパターンはどうか?いや、それはさすがに他の学生が気付くのでダメ。
では、夏休みに入る前に事故に会い、今は夏休みで授業はない…という設定。家族もまだどうしてよいのか動揺しているさなかで、障碍の経過を見守っているのだ…、これならどうだろう。高校は授業があって大学はまだ夏休みなので(北海道の高校の夏休みは短いからね)矛盾も少ないし、他の学生が気付かないのも、わからないではない。本人ももう学校を辞めるしかないとわかっていて、最後の思い出作りをしているんだ…と。
まあ、何度も告白してしまうシーンとか、父親に思いを語るシーンとか、グっとくるシーンはいくつかあるので、映画にしようと思いついたのは判るけど、それならしっかりツメて欲しい。素人に「自分がやったら、もうちょっとうまく作れる!」って思わせるのって、どうなんだろうね。とにかく、実際にこういう障碍を持ち苦労されている人は存在するので、真剣にやって欲しかったな。
『うた魂♪』とは違って、しっかり北海道でロケはしている模様。あっちにいったりこっちにいったりして、知ってる人には違和感があるのはご愛嬌か。よく見えなかったけど、麻生発のバスに乗ってるようなので、小樽方向までの中間地点に家があると思うのだが、じゃあ、大学に向かうバスの中で寝たからといって、海にたどり着くことはないでしょう…とか、まあ、北海道の地理がピンときてる人には、パラレルワールド状態だね(笑)。
他のドラマでの演技に比べて、宮川大輔のデキがものすごく悪いとか、北海道の学生プロレスラーごときがプロレス誌にカラーで載ることなんかねえ!とか、サエコの魅力がどんどん軽減し、それに反比例するように仲里依紗の魅力が上がっていくという、その後の彼女らを予言しているような作品だとか、その他にも言いたいことは満載だけど、このへんでいいか。
皆様の人生の貴重な二時間を、この作品で費やせとは、口が裂けても言えないので、お薦めしない。
公開年:2005年
公開国:ドイツ、オーストリア
時 間:92分
監 督:ニコラウス・ゲイハルター
ノミネート:【2006年/第19回ヨーロッパ映画賞】ドキュメンタリー賞(ニコラウス・ゲイハルター)
コピー:「いただきます」って、だれに言いますか?
きっと、誰かに教えたくなる。食べ物があなたの食卓に並ぶまでの、驚くべき旅。
人間社会に流通する食物が、どのような過程を経て食卓まで届くのかを撮影したドキュメンタリー。野菜・果物・家畜・魚などが、高度に機械化された工場にて、システマチックに生産・処理されている過程をありのままに映し出した作品。
音楽もナレーションも字幕も何もないという、あるようでなかった形式のドキュメンタリー。今後、同様の手法のドキュメンタリーを作成しても、本作の真似といわれてしまうわけで、正にやったもん勝ちな作品。
ジャケットには牛さんの部位がデザインされてるし、PG-12ってことになっているし、もしかしてちょっとグロいシーンとかある?なんて身構えてしまったけど、多少解体の時に内蔵とか血が出る程度で、畜産のプラントならばあたりまえの光景。むしろ、ショッキングに映るかもしれない部分は意図的に排除しているような印象。よっぽど農業高校の生徒のほうが、ショッキングな経験をしているでしょう。
とはいえ、確かに動物の解体の場面は緊張してしまうし、その自分のドキドキ感とは反対に、作業している人の淡々とした感じに、はじめはものすごく違和感を感じるに違いない。畜産関係だけじゃなく、農業とか漁業関連のシーンも多いからかもしれないが、30分を過ぎると、そういった動物解体のシーンもさほど気にならなくなる。むしろ、システマチックな感じが妙に心地よく感じられ、トランス状態になってしまうという、この不思議な感覚。
何のプラントなのかくらいは字幕があったほうがいいという人もいるようだが、私は絶対に不要だと思う。外国旅行にいった先にたまたま工場や農場があったので、ふらっと立ち寄ってぼ~っと見てました…、そんな感じかな。
製作した人はあまり意識していなかったと思うが、畜産にしても農業にしても、国によって手法がかなり違うということに気付く。たとえば、ひまわりのような植物(油の原料かな)を採取するために、薬剤で枯らしてから刈り取っているが、ちょっと日本では考えにくい。個人的に一番怖かったのは、岩塩の採掘場かな。もちろん日本にはないのだが、地下深くの空間で、あんなに広い範囲を柱もなしに広げるなんて、恐ろしくて恐ろしくて。
これを観て、ベジタリアンになろうと決める人が稀にいるかもしれないが、そういう感性の人とは私は合わないだろうな。ぎゃー、人間はなんて罪深いんだ!って、そこで思考が止まる人は、その罪を背負って死ねばいいと思う。人間は、動物だろうと植物だろうと、その命を奪わないと生きていけない“業”を背負っていることを、再確認させてくれる。これは、大人になる前に観ておいたほうがいい作品かも。観た後の「ごちそうさま」の重みは変わってくるに違いない。
ほんとに、観る前は予想だにしなかった、おだやかな心持ちになることができた作品。私はお薦めしたい。
#理由はわからないが、何故か「一生懸命働かなきゃなぁ…」って気持ちになった。
公開年:2001年
公開国:フランス
時 間:95分
監 督:フランソワ・オゾン
出 演:シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール、ジャック・ノロ、アレクサンドラ・スチュワルト、ピエール・ヴェルニエ、アンドレ・タンジー 他
コピー:あなたは万物となってわたしに満ちる
マリーとジャンは、例年どおりバカンスのために別荘を訪れる。二人に子供はいなかったが、結婚して25年間、幸せにこうして過ごしてきた。浜辺を訪れたある日、マリーがうたた寝をしている間、ジャンは海に泳ぎに行く。彼女が目を覚ますとジャンの姿が見えなくなっており、いくら探しても一向に見つからない。不安は現実のものとなり、大規模な捜索をしたにもかかわらず行方不明となってしまった。数日後、マリーは失意のままパリへと戻るのだったが…というストーリー。
『ぼくを葬る』に続いて、オゾン監督作品は今年二作目だけど、なんとなくノリが掴めて来たぞ。変な言い方かもしれないけど、お上品なエログロ趣味の人だな(何かしらグロ要素は入れないと気が済まないみたい)。そして、ラストは“す~~ん”って感じで終わる(笑)。
突然、愛する人を喪失する苦痛というのも理解できるし、諸々の彼女の言動を観て“大人の作品だ”と評価するのは簡単だろうけど、正直なところ、どう捉えてよいのやらよくわからない。
相手が軽すぎるだ、行為の途中に笑い出すだ、本作の批評ではよく取り上げられるシーンなんだけど、私には、喪失感に耐えられず、適応障害に陥った人にしか見えない。いや、徐々に受け止めようとする姿や、足掻いている様子はわかるのだが、これは身近な人を亡くすような経験をしないと共感できないのかも。私には、「ああ、あの人はもういないのね…」みたいな感情が湧いた経験はないものなぁ。人生経験が不足といってしまえばそれまでなんだけどね。
ラストがすごいと評価する人もいるけれど、私の目には、同じように“狂気”以外の何にも写らなかった。おすぎさんのように、ラストがすごいと興奮はできないなかったなぁ。
ただ、興味深かったのは、夫をそんなに激烈に深く愛していたようには見えなかった点かな。愛するということは失うことと表裏一体。愛の深さとは、喪失感(もしくは失うかも…っていう恐怖感)との相対的な振り幅のことなんだよ…ってことを言いたいのならば、確かにそれは慧眼かもしれない。
ピンとこなかった人間なのでお薦めはできないんだけど、逆に皆さんがどう思ったのか、どう捉えたのか、どう解釈したのかを、教えて欲しいなと思う作品。
公開年:2007年
公開国:アメリカ
時 間:148分
監 督:ショーン・ペン
出 演:エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン、キャサリン・キーナー、ヴィンス・ヴォーン、クリステン・スチュワート、ハル・ホルブルック、ブライアン・ディアカー、ザック・ガリフィナーキス 他
受 賞:【2007年/第65回ゴールデン・グローブ】歌曲賞(曲/詞:エディ・ヴェダー“Guaranteed”)
コピー:そして僕は歩いて行くまだ見ぬ自分と出会うために
大学を優秀な成績で卒業した青年クリス。両親からの卒業祝いの新車を断り、口座に残っていた学費をすべて慈善団体に寄付し、何も告げることなくアラスカへ向けて旅に出る。道中、サウスダコタでは彼の無鉄砲を諫めてくれる荒くれ男のウェインと親交を深めたり、ヒッピーのコミュニティーに身を寄せたり、様々な経験を重ねる。その一方、彼の家族は祈る思いで彼の帰りを待っていたのだが…というストーリー。
若さゆえの純粋さや危うさを、うまく表現した作品…と評価してあげたいところだが、個人的にはしっくりこなかった作品。
まず、多くの人が引っかかったと思うが、荒野での生活を求めたにも関わらず、いきなりバスを見つけて居ついてしまうのは、腰砕けも甚だしい。いや、これが実話なのはわかっているので、実際、あの状況になったら、バスに入るのは理解できるのだが、コレは映画にまでする話なのだから、そんなトコで折れられてはたまったものではない。それに、物質社会を嫌うだけ嫌っておいて、相当数の弾丸を持ち込んでいるし、そこそこの量の米ももってきていて、けっきょく物質文明から離れられない矛盾に、何の違和感も感じていないのが、理解に苦しむ。
アラスカでの一冬だって、予想の範囲を超えた自然の厳しさだったっていうだけの問題であって、本人としては、ちょっとしてハードなキャンプ感覚だったのではなかろうか…そう頭をよぎると、なんかくだらなく思えて仕方がない。
社会から距離をおくために、紙幣を焼くシーンがあるが、大学出のいい年齢の人間がする行いではない。根本的に紙幣というものは、人が他人への施しをした対価であって尊い物である。それが拝金主義の根源みたいにしか見えないのだから、見識が浅いにもほどがある。また、旅の先々で出会った人が、いろいろ手を差し伸べているにも関わらず、丁重にお断りするという姿勢ならいざ知らず、その手を無碍に払うようなまねをしている。加えて、人の話は聞かないは、中途半端に知識だけはあって弁は立つは、闇雲に冒険心だけは強いは、危険を恐れる感覚は薄いは、こういう遺伝子をもった人間は、そりゃあ死ぬ確率は高かろう。
孤高の存在でありたいと思っていたのだろうが、孤高と孤立は違う。孤高というのは人と人と繋がりを理解した上で自立することであって、単に今の自分の周りにある繋がりがイヤだからといって忌避するのは孤高ではない。さらに、中途半端なものだから、どこかから離れても、すぐに別のだれかとの繋がりを求めてしまう。
結局、最後の主人公の感情だって、作者の予測でしかないんだし、「これ、真剣に付き合わないといけないわけ?」 そんな気持ちになってしまった。
内容を脇に置いたとしても、テンポが良くないと感じる。アラスカまでの道中(最後のじいさんに出会う前くらい)までは、若さゆえの疾走感みたいなものを表現して、もっとサクっと展開させるべきだと思う。そしてアラスカとの時間の流れのコントラストを表現してほしかった。そうすれば、上映時間ももう少し短くできただろう。申し訳ないが、これは、ショーン・ペンの監督としての力量の問題かと。
実話ベースの弊害の最たる作品だと思う。物質文明や家族内でのしがらみから逃避して、自分を見つめなおしたくなるのも理解できるよ~ってエピソードがもうちょっとあれば、バランスが取れたんだろうけど、実話だから創作エピソードを盛り込むわけにいかないものね。世の評価は結構高いが、凡作から半歩ほど足がはみ出た程度のデキだと思う。音楽の評価も高いんだけど、私の好みではなかった(楽曲の歌詞が理解できれば、違ったかもしれないけど、私のヒアリング能力はポンコツだから)。あまりお薦めしない。
#そんなに蝿を避けたいなら、川の中で解体するとか、生き死にを左右する場面なのに、もうすこし知恵は出ないものか…と冷めた目で見てしまった。
出張とか入ると、投稿は遅れてしまいますわ。
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